第23話:崩壊する楽園、そして次なる道標
聖域は、紅蓮(ぐれん)の炎に包まれていた。 地下の女王蟲が死んだことで、地上に溢れていた神官(バケモノ)たちも連鎖的に自壊し、腐った肉塊へと変わったのだ。
「……あーあ、燃えちゃった」
テツが燃え盛る大社(たいしゃ)を見上げ、残念そうに呟く。 彼女の腹の中には、神聖な青銅の鏡が収まっている。当分は空腹に悩まなくて済みそうだ。
「感傷に浸ってる暇はねえぞ」
迅(ジン)は瓦礫(がれき)の山を足で退けながら、何かを探していた。
「あった」
彼が引きずり出したのは、焼け焦げた金庫だ。 神官たちが信者から搾り取った「寄付金」が詰まっているはずだ。
「鍵がかかってる……」 「テツ、やれ」 「あいよっ!」
テツが金庫の扉に噛みつき、ベリリッと引き裂く。 中からは、目がくらむような大量の金貨と宝石が溢れ出した。
「ヒヒッ……掃除代としちゃあ、悪くねえ」
迅は遠慮なく金貨を懐に詰め込む。 これは泥棒ではない。死人にはもう金は必要ない。生き残った者が有効活用するのが、この世界のルールだ。
「ジン、これからどうするの? 緋桜(ヒザクラ)は、もうここにはいないよ」
テツが問う。 あの「お掃除ご苦労様」という立て札。 あれは、彼女が既にここでの用事――清浄の泉を汚すこと――を終え、次の場所へ移動したことを意味している。
「あの女の考えそうなことは一つだ」
迅は燃える大社に背を向け、地図を広げた。 聖域よりも、魔都よりも、さらに巨大で、さらに「穢(けが)しがいのある」場所。
「……『帝都(ていと)』だ」
この国の中心。 天皇(すめらみこと)が住まい、最強の陰陽師や武士が集う、人類最後の砦。 そして、最も濃密な「秩序」が存在する場所。
「秩序を壊すのがあいつの趣味だ。……間違いなく、次は帝都を地獄に変えに行く」
迅は地図上の「帝都」の文字に、血濡れた指を押し付けた。
「行くぞ、テツ。……あいつが国を滅ぼす前に、俺たちが追いつく」
「うん! 帝都なら、もっと美味しい鉄があるかな?」
「あるさ。最強の『神剣』とやらがな」
二人は燃え落ちる楽園を後にした。 その背中には、大量の軍資金と、揺るぎない殺意。
だが、迅たちはまだ知らない。 帝都への道中に、緋桜が放った「最悪の刺客」が待ち受けていることを。
瓦礫の陰から、一つの影が二人を見送っていた。 それは人ではない。 全身が刀の刃で構成された、異形の鬼。
『……見つけたぞ、半人半鬼(ハーフ)』
金属が擦れるような声が、炎の音に紛れて消えた。
(続く)
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