第2章 報復

 現代―ボクスタリア市某所

 目が覚める。どうやら、寝ていたようだ。いやな夢だった。

 家族を失った、あの日の夢。

 人の焼けるにおい、悲鳴の音、血の色。それをすべて知った日。

 母はただ口を開いただけで殺された。

 父はそれを見て逆上し、殺された。

 妹も、弟も、父と母が死んで隠れるのをやめた。

 それを、奴らは…

 俺の故郷、ボクスタリアと『大陸』西部はすでに有毛人に支配されている。『外洋』の有毛人は過去に対する償いを『大陸』及び無毛人にさせると宣言している。

 「なにが償いだ。奴らは俺たちから奪う口実が欲しいだけだ。」

 俺たちの故郷を支配しておいて。壊しておいて、なにが平和だ。

 俺の故郷は反対勢力として有毛人に滅ぼされた。

 村は焼かれた。

 母も、父も、妹も、弟も…みんな殺された!

 俺は憎んだ。そして、人類は自らを守らねばならないと。はっきりと知った。

 だが、ただ反撃するだけでは返り討ちに合うだけだ。

 なのに、大陸の保護者を自称する『人類』国家、連合共和国はゴルサス王国率いる反大陸連合にあっさりと敗れ、西部一帯を割譲した。そして、反撃すらろくにせず『平和』を宣言したのだ。

 だが、策はある。 

 そのために何年も準備をしてきた。

 そのとき、扉が大きく叩かれる。

「入れ。」なるべく威厳あるように返事をする。

 そんな自分を知らずに、若者は敬礼する。

息を切らしながら若者が口を動かす。

 「当局が…我々の動きを察知したようです!」

 落ち着かせるようにうなずき、ゆっくりと口を開く。

 「計画はどうなった?」

 「デモや暴動の扇動による陽動はすでに達成しています。あとは『地下』に出発するだけです。」

 「よし。出発だ。嘘の痕跡は残しておけ。なるべく時間を稼ぐぞ!」

 そして、秘匿された地下通路から俺たちは脱出を開始した。

 ボクスタリアには地下道が多い。虚核危機とその後の大陸同士の核戦争にもかかわらず、数千年たった今ではその残骸の地層の上に歴史ある街が築かれている。残骸には骨董品を集めようとする命知らずたちによって掘られた無数の坑道があるのだ。

そして、都市崩壊の原因を作り、虚核危機を起こした張本人こそ、物理学者イリオス・ヴァクルだ。

「見つけました!旧都市への坑道です。」仲間の一人が叫ぶ。

 いよいよだ。

 ここを抜け、人類の失われた英知、イリオスの研究グループが残した研究資料を手に入れる。そうすれば、俺たちは『人類』を救えるんだ。

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