第6話 チュートリアル
強いなんてものではない。ほとんどずぶのド素人である怜奈ですらわかる。
「ご命令通り、下種な男を始末しました。死体は……荼毘にふす暇はないようです」
ルリアの言葉通り、先ほど男が放った魔法の影響で続々とモンスターが集まってきていた。
実際、彼の能力の本質はこれだったのだろう。
魔力の性質を乱しモンスターたちを操作する。
この力を使いダンジョンスタンピードを意図的に引き起こし、モンスターに父を襲わせた。
その間自分は被害を受けていない。相当な賢さと実力があってこそだということはわかる。
「マスター、せっかくですのでこのモンスターたちを使って練習をいたしませんか?」
「練習?」
じわじわと集まってくるモンスターたち。窓の外に見える限りでも100体はいるだろう。宗次郎でも相手できなかったほどの物量を前に、ルリアは練習台にしようと提案した。
「はい、マスターのスキル
そう、怜奈はまだ知らないが、ダンジョンの乱立するようになったこの世界で、自らの意思でダンジョンを創り出すことができる
「私を召喚した際、魔力の流れを掴んだのはわかりますね? それをどのように変質させるか。それが魔法やスキルの正体です。
言いながらルリアは怜奈の右手をとる。
全身鎧の冷たさが指先に伝わった。
「まずはここに、魔力を集中させてください。そして炎と念じるのです」
言われる通り、怜奈は自分の魔力を指先に集中させていく。ルリアを召喚したときほど強い魔力ではないが、それでも確かに集まり、丸まり、集合していくのを感じた。
「炎……」
つぶやいた瞬間、怜奈の指先から業火が出現する。
それはまるで、宗次郎が生前使っていたかのような炎の魔法だ。
「す、すごい! でも、どういう理屈でこの力が? 私は
「
ルリアの説明を受け、怜奈は驚愕が収まらない様子だ。
何の能力もない。そう思っていた自分に、誰よりも強力な能力が備わっていたのだ。
沸き立つ興奮。高揚感。自分の力を試してみたいという欲求。そういったものが、怜奈の内からあふれ出していた。
ドガッ
そうこうしていると、ついに家屋の扉を破ったモンスターが侵入してきた。
ルリアは一足飛びでそこまで距離を詰め一瞬にしてコボルトを両断する。
「レーナ様、ここではお力を振るうのに少々狭いでしょう」
そういうと、ルリアは己の双剣に魔力を迸らせ斬撃を放つ。それは一瞬にして家屋を粉々に粉砕し、更地に変えてしまった。
興奮していたモンスターたちもこれには驚愕し足を止める。
瞬間、気を抜いたモンスターを激しい烈火が貫いた。
そう、怜奈の業火である。
「すごい。本当に私に、父さんみたいな力が……!」
続いて怜奈は、ルリアの教え通り「氷柱」とつぶやく。
次の瞬間、茫然としていたモンスターたちの足元から巨大な氷柱が出現し、一撃で彼らの心臓から頭部までを貫いた。
さらに岩石。風刃、光線まで。あらゆる属性の魔法を行使し怜奈はモンスターを倒していく。
その間、魔力が尽きる様子は一切ない。
「怜奈様、魔力をご自身の目元に集め、ご覧になってください」
ある程度モンスターが減ってきたところで、強弓を放ちながらルリアがそう言った。
怜奈は興奮冷めやらぬ様子でさっそく試してみる。
魔力の球体を今度は指先から自分の頭へと集めていき、特別な力を目に宿らせた。
すると……。
【
Lv12
固有スキル;
通常スキル:身体強化。魔力強化。魔力量増加
それはまごうことなき、鑑定の能力であった。
「ご自身のダンジョンや眷属、そして自分自身のことであれば、レーナ様は鑑定することが可能です。それも
モンスターを倒しているうちに、どうやらかなりレベルアップしていたらしい。
それに、新しい通常スキルも獲得している。
宗次郎はLv20で身体強化以外通常スキルを持っていなかったが、これも
レベルアップとともに魔力も上昇し、新しいスキルの効果もあって、まったく魔力切れを感じさせない戦いができていたのだろう。
コボルトも、ゴブリンも、スライムもゾンビもスケルトンも、もはや怜奈の敵ではない。
「おや、レーナ様。どうやら近くのダンジョンから少し強力なものもまぎれていたようですよ」
ルリアが指さす先には、3mほどだろうか。かなり巨大な体躯をしたバケモノ。コンクリートゴーレムがいた。
かのゴーレムが周囲にいるゴブリンたちを薙ぎ払い、一直線に怜奈たちのもとへ向かって歩みを進めている。
足は遅いが、その重量と強度の前ではあらゆるモンスターが無力だった。
「ッ! 氷柱!」
怜奈は慌ててゴーレムの足元に氷柱を発生させ足止めを図る。
しかし、そんなものは一瞬にしてくだかれてしまった。ゴーレムの進行を阻むことはできない。
(くっそ。コンクリート相手じゃ炎も光線も大してきかない。岩石の嵐でも対処できるか……)
ゴーレムは基本的に心臓部に核を持っており、それを破壊することで絶命する。
しかしコンクリートの耐熱性と頑強性はすさまじく、現状怜奈の魔法では溶かすことも貫くこともできない。
「ルリア、あれを倒せる?」
「もちろん。
ルリアはそういうと、短剣を携え付近の雑魚モンスターを一層する。
彼女にとってはどれだけ数がいようとも相手にならない。
(私だけで対処しろって……。う~ん、あっ!)
もはや眼前まで迫っていたゴーレムに対し、怜奈は地面に手を付ける。
(ダンジョンの罠と言ったら……)
「落とし穴!!」
瞬間、目の前の地面が崩壊し深さ5m程度の巨大な穴が形成される。
今まさに怜奈へ殴り掛からんとしていたゴーレムは、真っ逆さまにその穴へと落ちて行った。
(ゴーレムの核も大きな魔力体。ダンジョンで落とし穴に落ちたら、次のトラップは絶対に……)
「吸魔の罠!!」
できる確証はなかった。しかし実際にやってみると案外簡単なものだ。
落とし穴の下で魔力を吸い上げる罠が作動し、ゴーレムから力を奪っていく。
さらにゴーレムが落とし穴から這い上がれないよう、吸い上げた魔力を使って壁面を凍らせ滑るおまけつき。
戦闘時に一瞬でこれだけの判断ができるのは、怜奈の天性の才というものだろうか。
しばらくするとゴーレムは完全に動かなくなり、魔力も吸い上げられなくなった。
完全に魔力核から吸い尽くしたのだ。実感はないが、これでゴーレムは死亡ということになる。
「やったぁ! うまくいったよルリア!」
ふと見上げてみると、あたりのモンスターをすべて狩りつくしたあとのルリアが拍手を送っていた。
「おめでとうございますレーナ様。これで魔法、トラップに関するチュートリアルは完璧ですね」
血みどろの状態でにっこりとほほ笑む美女の相貌は、少し狂気的な恐ろしさがあった。
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