第5話 眷属召喚
目を開けていられないほど眩い光が一帯を包み込む。
まるで衝撃波でも受けたように、二人は飛びのいた。
薄墨色に染まっていた空をも照らし返すほどの極光。屋内からでも、外へ濁流のような光線を迸らせていた。
今まさに怜奈へ襲い掛かろうとしていた男は、あまりの衝撃にその足を止める。
光が収まると、そこには……。
「
白銀色のフルプレートメイルに身を包んだ聖騎士が突如として現れた。
長い銀髪をなびかせ、瑠璃色の瞳は一心に怜奈の目を見つめている。
怜奈よりも少し高い身長に、腰には二振りの短剣と強弓を装備していた。
「
怜奈の頭の中には疑問符が浮かぶばかりだ。
咄嗟に
しかし、状況整理をしている暇はなかった。
「な、なんだお前は!? いったいどこから現れたんだ!!」
怜奈を襲おうとしていた男が、腰から剣を抜き放ちそう叫んだのだ。
おそらくは難民キャンプで鍛冶能力を持つものが作ったのだろう。刃渡り70cm程度の片手剣。切れ味は悪そうだが、明確な凶器であることは間違いない。
突然の出来事に、彼も動揺している。
そんな彼に対し、銀色の聖騎士は余裕の表情で答えた。
「
剣を構える男に対して、ルリアは武器を抜こうともしない。
「意味不明だが、まあいいだろう。それに……なかなか悪くない。フフ、今からこの俺が二人とも……」
動揺てしていた男だったが、ルリアの美しい容姿を舐めまわすように見つめると、その雰囲気を変える。
元々怜奈を襲おうとしていたのだ。対象が一人増えただけ。そのように考えたのだろう。
男は大きく一歩、屋内の狭い空間で間合いを詰めた瞬間に大きく剣を振りかぶり……。
超高速の魔力体を打ち出した。
それはルリアの意表を突き、彼女の腹に直撃する。大きな魔力煙を上げた。
「ははは! 油断したな。俺のメイン技は魔弾なんだよ!!」
そう、彼のスキルは魔弾の射手。銃弾もかくやという威力の魔力体を身体のいたるところから射出することができるというスキルだ。
宗次郎の炎熱には及ばないにしろ、高い殺傷能力と扱いやすさは脅威である。
男は煙が収まらないうちに続けて振りかぶった剣で袈裟切りを放つ。魔弾を受けた直後、完全に対応不可能なタイミングの斬撃。
……しかし、その斬撃はガインという鈍い音とともに遮られる。
白銀の鎧だ。ルリアのフルプレートメイルが、男の斬撃を完全に受け止めていた。
煙が晴れると、魔弾を受けたはずの胴部も穴が開くどころか傷一つついていない。
そしてルリア自身もまた、あれだけの攻撃を受けて一歩たりとも後退していなかった。
それは彼女の体感の強さと体軸のブレなさをうかがわせる。
攻撃を受けたルリアは実に涼しい表情だ。まるでそもそも攻撃など受けていないかのよう。
「なっ!?」
これにはさしもの男も驚いた。
今までどんな魔物相手でも彼の魔弾が通用しなかったことはなかったからだ。
剣を振り切った姿勢の男に対し、ルリアはゆっくりと態勢を整えなす。
そしてそのまま、男の胴部めがけて一発突きを放った。
非常に緩慢かつ単純な動きであったが、なぜか男はこれに対応できなかった。
躱すことも防ぐこともできずまともに一撃を受ける。
「ぐはっ」
彼女にとっては少し小突いただけ。
それでも、フルプレートメイルの小手の硬さと重量は男に十分なダメージを与えた。
たまらず男は地面に倒れ、剣も投げ出してしまう。
「出会って早々に切りかかってくるとは、なんと無礼なお人でしょう。どうやらレーナ様のお友達でもないようですし、どういたしましょうか」
ルリアはくるりと輪舞を踏むように怜奈へ振り返ると、未だ唖然とした表情の彼女へ問いかける。
その瞬間、ようやく彼女は状況を理解することができた。
今まで色々なことが立て続けに起きすぎて、思考がまったく追い付いていなかったのだ。
ひどく冷静になった頭で考えた末、怜奈は短く言葉を放つ。
「殺して」
自分の召喚に応じて現れたのだという白銀の乙女へ向かって、怜奈は男を殺害するよう命じた。
その言葉は、およそ自分から発せられたとは思えないほど落ち着いていて、冷酷で、それでいて激情的でもあった。
この男は、どうやってかは知らないが父を殺した。こいつのせいで、大切な最後の家族を失ったのだ。
「殺す……? この俺を? お前が……? そんなひどいことをするのか!」
男は苦痛に悶えながらも立ち上がり剣を握ると、怜奈へ向かって言い放つ。
対する怜奈は、いたって冷静そのものだった。
「自分もやってきたことでしょ? 人を殺したなら、自分も殺されるのは当たり前。ルリアさんって言ったっけ。そいつは結構強いから気を付けて。そして確実に殺して」
男の実力は怜奈も知っている。しかし先ほどの攻防を見る限り、
「承知しました、マイマスター。この下種な男は処分いたします」
そういいながら、ルリアは腰に装備していた二振りの短剣を抜き放つ。
白銀色の光沢を放つそれは、撫ぜるだけで巌をも切断する絶対の切れ味を感じさた。
「ちくしょう、ちくしょう! くそったれが! モンスターども、集まってこい!!!」
錯乱した男は、掌から天に向かって魔法を放つ。
それは家屋の天井を突き破り、空中で爆散した。
「お前が持ってきた魔道具のおかげで気づけたんだ、この特殊能力にな! 周囲の魔力を変質させ、モンスターを意図的に集める能力だ!」
これでお前の父も殺したのだと、男は暗にそう告げていた。
しかし、やはり錯乱していたのだろう。自分を中心にモンスターを集めたということは、自分もこれから襲われるということだ。
「クソ、やられた。ルリアさん、さっさとそいつを殺して脱出しないと!」
「マスター、
言いつつ、ルリアは男に向かって間合いを詰める。
彼女の動きは、その一歩すら達人の領域まで研ぎ澄まされた遠大さを感じさせた。
男は彼女に間合いを詰められたというのに一歩後退することすらできず、どんどんと距離は近づいていく。
瞬間、男は再度魔弾を放つがルリアは剣で受け止めることすらせず防具で凌いで見せた。この鎧は突破できないという、絶対の自信があるのだ。
そして一刀。短剣のたった一振りで構えていた剣ごと男を袈裟懸けに両断した。
短剣の刃渡りは短く、成人男性ほどの厚みを両断するなど普通は不可能だ。
しかし彼女の短剣と技量が合わされば、不可能など存在しない。
男は苦悶の表情を浮かべる間もなく、あっけなく、あっさりと絶命した。
空き家となった民家に血だまりを残し、その場に倒れ伏す。
これが
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