転生した俺は【権能コピー】で最強神になった ~勇者パーティーから追放されたけど、全スキルを複製できる俺に世界がひれ伏すまで~

@tamacco

第1話 追放された日、終焉の鐘が鳴る

 金属がぶつかる鈍い音が、石造りの広間に響いた。

 俺、リクトは冷たい床に膝をついたまま、唖然とした。

 足元には折れた剣。その刃には、仲間だったはずの勇者ユリウスの血が微かにこびりついている。

 ――まさか、本気でやりやがったのか。


「リクト、お前の存在はもう必要ない」

 黒髪を後ろで束ねたユリウスが、冷たく言い放った。聖剣を肩に担ぎ、金の瞳には微塵の迷いもない。

「このパーティーは世界を救うためにある。無能が混ざる余地はない」

「無能……か」

 唇が震えた。俺の胸の奥で、何かが音を立てて崩れた気がした。


 この勇者パーティーに拾われたのは三年前。街外れで野盗に囲まれ、死にかけていた俺を助けたのがユリウスたちだった。

 彼らに恩がある。命を救われたからこそ、少しでも役に立ちたいと必死に努力した。

 だが俺のスキル【権能コピー】は、あまりにも地味に見えた。

 発動しても、他人のスキルを「模倣する」だけで、攻撃力や防御力は上がらない。しかも模倣対象が拒めば無効。

 戦闘で役に立たないスキル――そう言われ続けた。


「おいリクト、何か言い訳はねえのか?」

 長身の戦士バルドが、肩をすくめて笑う。彼は何度も俺を「足手まとい」と呼んできた。

 隣には魔法使いのリゼ。彼女はかつて俺に微笑みを向けてくれたが、今は冷たい視線をこれでもかと突きつけている。

「ねえ、前から思ってたの。あなたがパーティーにいると、魔力の流れが乱れるのよ」

「……リゼ、お前まで」

「事実よ。あなたのせいで魔王戦の準備も遅れてる」


 胸の内に黒いものが湧いた。

 ああ、そうか。最初から俺は“仲間”なんかじゃなかったんだ。

 都合のいい間だけ利用して、不要になれば切り捨てる。それが彼らのやり方か。


「いいか、リクト」

 ユリウスが俺の前に立ち、剣を突きつける。

「勇者パーティーを離れた者は、王都に戻ることも、冒険者として名を名乗ることも許されない。それが契約だ」

「……追放、ってことか」

「正確には破門だ。お前の名も、記録も、全て抹消する。冒険者ギルドでお前が何を言おうと、誰も信じはしない」


 広間の隅で見ていた司祭が、祈りの鐘を鳴らした。

 それは“追放の儀”の合図。

 ――終焉の鐘。


 その音が響いた瞬間、俺の胸の奥で何かが弾けた。

 砕け散ったプライドの代わりに、静かな怒りが満ちていく。

 構わない。もう何もいらない。

 ここで終わりなら……ここから始めてやる。


 地に伏せたまま、俺は顔を上げた。

 笑っていた。自分でも驚くほど、穏やかに。

「なあユリウス。ひとつだけ教えてくれ」

「……なんだ?」

「“救う”って、どう意味だと思ってる?」

「決まっている。人類を、世界を救うことだ」

「そうか。じゃあ――お前の“救う”世界は、俺の敵だ」

 そう言い残し、俺は聖堂を後にした。


*****


 数日後、辺境の村。

 人々が見向きもしない廃棄神殿の地下、ひとりの女が倒れていた。黒衣をまとい、肌は月光のように白い。

 その名はクロエ。

 古の時代に封印された“闇の女神”だと、後に知ることになる。


「……助けないのか?」

 俺の問いに、クロエは薄く笑った。

「助かる見込みがないものを、誰が救うというの?」

「そういう言葉、聞き飽きた」

 俺は自分の傷だらけの手を見下ろした。追放された後、王都の冒険者ギルドで身分を消された。宿も追い出され、行くあてもなく、ここまで流れ着いたのだ。

 だが、この女の姿を見た時――なぜか、放っておけなかった。


 俺は懐から小瓶を取り出し、女神の唇にそっと水を滴らせた。

 それだけで、彼女の体が微かに光を放つ。

「……お前、何をした?」

「ただの水だよ。俺のスキルが勝手に反応しただけだ」

 画面のように、視界にシステムウィンドウが浮かぶ。


【対象:闇の女神クロエ】

【権能コピー可能】

【模倣しますか?】


 見覚えのない反応だった。

 人間相手にしか使えなかったはずのスキルが、神に反応している。

 胸が高鳴る。これが、俺の“始まり”だと直感した。


「……コピー」

 小さく呟くと、黒い魔法陣が俺の手を包んだ。

 闇の女神が持つ“権能”が、俺の中に流れ込んでくる。

 それは冷たい夜の底のような力だった。


 クロエが目を開いた。

「人間が、神の権能を……?」

「さあな。俺のスキルはそういうものらしい」

「ふふ……面白い。では契約をしよう、人の子」

「契約?」

「我が力を与える代わりに、お前の“復讐”を見せて」


 その瞬間、脳裏に走ったのは仲間たちの笑み。

 ユリウスの冷たい瞳、リゼの嘲笑、バルドの侮蔑。

 あの日の痛みが鮮やかによみがえる。


「いいだろう。見せてやるよ。俺の復讐を」

 闇の力が俺の腕を包み、黒い紋様が走る。

 まるで神話の契約儀のように、空気が震えた。


 その夜、辺境の空に封じられた神域が震えた。

 そして翌朝、ギルドの通報網に奇妙な報告が流れた。

 “滅びたはずの神殿から、黒き光が立ち上った”

 “闇の神が再び目覚めた”


*****


 夜明け、俺は廃墟の外で立ち尽くしていた。

 遠くの空に、王都の塔が霞んで見える。

 あそこに――俺を切り捨てたすべてがある。


「リクト。あなたの望みは?」

 背後からクロエの声がした。

 その瞳は琥珀色に光り、どこか寂しげだった。


「奪われたすべてを、取り戻す」

「そして?」

「奪い返した上で、全部壊す」


 俺の中で黒い炎が燃え始めた。

 誰にも理解されなくていい。

 もう誰のためでもない。俺は俺のために、この力を使う。


 追放された日、俺の人生は終わった。

 だが同時に――新しい神の物語が、そこで始まったのだった。

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