スキル【魔物図鑑】で異世界を制す ~最弱テイマー、進化合成で“仲間”と共に最強へ成り上がる~

@tamacco

第1話 異世界転生と“最弱職”の現実

 ──眩しい光に包まれ、体がふわりと浮かぶ感覚。

 次に目を開けたとき、俺の視界には見知らぬ草原が広がっていた。


 青空。風に揺れる草。森のざわめき。

 それに、見知らぬ格好をした三人の男女が俺を囲んでいた。


「おお、成功した……! 本当に召喚できたぞ!」

「勇者様! この世界を救うため、我らが呼び出しました!」


 勇者。

 俺──城之内蓮(じょうのうちれん)は、一瞬で理解した。

 これは、いわゆる“異世界転生”か“召喚もの”ってやつだ。


「えっと、俺……勇者なんですか?」

「はい! 神託により、この世界の危機を救う『外界の勇者』として!」

「おお……」


 まるでラノベ主人公。

 突然の展開に頭が追いつかないまま、俺は神殿のような建物に連れて行かれる。


 豪華な衣装の王、異国風の騎士たち。まるで中世ヨーロッパ。

 ゲームみたいな世界だと呑気に考えた俺は、このあと地獄を見ることになる。


 王は俺にこう告げた。

「この水晶球に手を置くがよい。お前の職業とスキルが視えるはずだ」


 言われるままに手を置く。

 青く光った水晶の中に、幾つかの文字が浮かんだ。


────────────────

職業:魔物使い(テイマー)

スキル:魔物図鑑

────────────────


「……は?」

 確認するまでもなかった。王の視線が一瞬で冷え切った。

 周囲の騎士たちが顔を見合わせ、失笑を漏らす。


「魔物使い……不遇職だな」「しかもスキルが図鑑だってよ」「情報閲覧しかできねえやつじゃん」

「召喚失敗じゃねえか」


 ざわざわと湧く失望の声。

 俺は慌てて問い返した。


「す、すみません、このテイマーって、戦えないんですか?」

「戦えぬ。下級モンスターを飼い慣らす程度の者よ。勇者どころか、農夫の下働きレベルだ」


 突き刺さる言葉。

 期待されて召喚されたはずが、一瞬で“使えないやつ”扱い。


「お前の処遇は……そうだな。冒険者ギルドに登録し、自由に生きるがよい。王都には不要だ」

 王の一言で、俺は即日追放された。


 ……召喚されて半日でクビ。

 漫画でよく見る“追放展開”を、まさか自分が体験するとは思わなかった。


     *


 王都の外れの冒険者ギルド。


 磨り減った木のカウンター越しに、受付嬢の女性が俺のステータスカードを眺めて小首を傾げた。


「魔物使い、ですか……。すみませんが、討伐任務は受けられませんね」

「えっ、なんでですか?」

「ギルド規約で、魔物使いは単独行動禁止なんです。従魔がいないと危険ですから」


 つまり、戦闘要員がいないとクエストすら出られないということらしい。

 完全に詰んでる。


「従魔って……どうやって契約すればいいんですか?」

「魔物を倒して、“魂の欠片”をスキルで呼び出せれば。ただ、失敗すると襲われて死ぬ可能性も」

「なるほど……死ぬのか」


 軽い説明の中に、えげつないリスクが混ざっていた。


 仕方なく、ギルドを出て近くの草原に向かう。

 そこには、ぷよぷよと揺れる青いスライムがいた。


「……やるしかない」


 木の枝を拾い、恐る恐る近づく。

 ぺち、と枝で突いた瞬間、スライムがぐにゃりと震え、ぴょんと飛び跳ねた。

 想像以上に素早い。

 何度も回避しているうち、偶然スライムが岩にぶつかって動かなくなった。


 息を整え、スキルを発動してみる。

「魔物図鑑、起動!」


 目の前に淡い光の板が浮かび上がる。まるでホログラム。

 そこには文字が表示されていた。


────────────────

スライム・レベル1

属性:水

好物:甘草の蜜

性格:おとなしい

契約可能条件:魔力接触(低確率)

────────────────


 情報だけ。

 戦闘補助もなければ、分析結果に攻撃アップもない。

 ──本当にただの図鑑じゃん。


 俺はがっくりと肩を落とす。

 だが、その下に小さな文字があった。


 ※「契約可能条件」欄をタップすると編集モードに切り替わります。


「……編集?」

 冗談半分で触れてみると、光がきらりと変化し、条件欄が書き換え可能になった。

 試しに「甘草の蜜を与える」と入力する。


 スライムがぷるぷると身を震わせ、にゅるりと近づいてきた。

 そっと拾った草に付いていた蜜を与えると──


「……ぷる、ぷるう?」


 青い体が柔らかく波打ち、光の輪が俺の腕に巻き付いた。

 次の瞬間、体内に何かが流れ込む感覚が走る。


────────────────

スライム(ルナ)との契約に成功しました。

スキル:水弾(取得者混合共有可能)

────────────────


「うそ……共有できるのか」

 スライム──いや、ルナが楽しそうに俺の肩に乗った。

 まるでほんのり光るマスコットみたいだ。


「よろしくな、ルナ。……まさか成功するとは」


 試しに念じると、指先から水の弾が飛び、木の幹にぱしゃりと当たった。

 弱いけれど、確かに攻撃スキルだ。


 図鑑スキルが契約条件を“編集”できる。

 しかも従魔のスキルを“共有”できる。

 ──これって、使い方次第でいくらでも強くなれるんじゃないか?


 思わず笑みがこぼれる。

 王に「無能」と言われた瞬間の悔しさが甦った。


「見てろよ……ぜったい見返してやる」


 ルナがぴるると鳴いて、俺の頬をぺちぺち叩いた。

 その仕草がやけにかわいくて、力が抜ける。


「ありがとう、ルナ。お前と一緒に、最強のテイマーになるよ」


 小さな相棒と一人の青年。

 この世界で、最弱と呼ばれた職業の反撃が、今始まろうとしていた。

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