第3話




 少女は、この紀行のみならず、今までにも多くの妖と逢着していた。


 ――知見を広げなさいという、母親からの勧め。

 所謂、『可愛い子には旅をさせよ』というのも一理ある。

  しかし、それだけが事由ではなかった。 ⋯⋯自己要因として、自分探し。

 これがあるのだ。


 仏蘭西の哲人であったか。 あの『我思う、ゆえに我あり』の一句を残したのも、たしか彼であった。

 それを信奉・心酔している、ということではない。

 だが、道理には叶うモノ。 ――だと思ったのだ。


 ならば。 何時から、自身を自由人だと思っていたのだろうか?

 先の発言は少女自身にも刺さるのではなかろうか? 


  ――盲信。


 少女も悪守と同様の柵に纏わりつかれていたのかも知れない。


 畜生が畜生と言われる所以。 それは、目先のことに囚われ、 外面を見ずして内面のみで事象を判断するからだ。 そのようなヒトを、世間体では 畜生界に属すると呼ぶのだ。


  ……要するに。 少女、紅葉は無意識に『三悪趣』へ取り込まれていたのだ。

  堕ちた。――というのは適切ではない。

 元来そうであった。 それを今知っただけに過ぎないのだ。


  ―――悪守に触発された、それだけなのかも知れない。


  だが、俄然。 紅葉は悪守への興味が一層強くなった。 彼との会話にて収穫できる物事の多さを、 その蔦を掴んだのだ。



  「⋯⋯あのっ、貴方の生き様。それを、詳細を、お聞きしたい」


  「⋯⋯願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ――という。―――良かろう。吾ももう長くないのだろう」


 悪守は声を和らげ、続ける。

  「大詰めとなるかも知れぬ、――その代わり、発言の責任は取らせるぞ」



【生者必滅】



1



 天正。


 それは一言で、乱世であった。


 別にこの時代に生まれたのではない。

明晰として覚えとるのが、その辺なだけだ。


 天下統一だのには興味など微塵も無いし、話す意味もない。

―――というより、何しろ俗世から離れていたのだ。分からないだけなのだ。


 当時の吾は、伊賀に居った。

 伊賀というのは都合が良かった。

 一揆なり、反乱なり。――混世と呼ぶに相応しい具合だった。


 ⋯⋯だからこそ、喰らうにはもってこいなのである。

 無抵抗ではつまらぬ。

 悪足掻きをするにしても、真剣・竹槍・弓―――。これらを用いた人間との応戦には血が騒いだ。


 特に、妖退治だとか――。

 あまりにも現実的ではない意趣をほざく若者を狙ったのだ。


 二度目にはなるが、抵抗をしない者を狙うのは面白くない。

 女だとか赤子だとか、そんなのは勿論、童を殺生するだなんて馬鹿らしいではないか。


 ―――だから、こそなのだ。

 だからこそ、屈服したという事実が飲み込めなかったのだ。

 人では無いにしろ、『おなごに対し、地を着いた』ということに。


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