第3話
5
少女は、この紀行のみならず、今までにも多くの妖と逢着していた。
――知見を広げなさいという、母親からの勧め。
所謂、『可愛い子には旅をさせよ』というのも一理ある。
しかし、それだけが事由ではなかった。 ⋯⋯自己要因として、自分探し。
これがあるのだ。
仏蘭西の哲人であったか。 あの『我思う、ゆえに我あり』の一句を残したのも、たしか彼であった。
それを信奉・心酔している、ということではない。
だが、道理には叶うモノ。 ――だと思ったのだ。
ならば。 何時から、自身を自由人だと思っていたのだろうか?
先の発言は少女自身にも刺さるのではなかろうか?
――盲信。
少女も悪守と同様の柵に纏わりつかれていたのかも知れない。
畜生が畜生と言われる所以。 それは、目先のことに囚われ、 外面を見ずして内面のみで事象を判断するからだ。 そのようなヒトを、世間体では 畜生界に属すると呼ぶのだ。
……要するに。 少女、紅葉は無意識に『三悪趣』へ取り込まれていたのだ。
堕ちた。――というのは適切ではない。
元来そうであった。 それを今知っただけに過ぎないのだ。
―――悪守に触発された、それだけなのかも知れない。
だが、俄然。 紅葉は悪守への興味が一層強くなった。 彼との会話にて収穫できる物事の多さを、 その蔦を掴んだのだ。
「⋯⋯あのっ、貴方の生き様。それを、詳細を、お聞きしたい」
「⋯⋯願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ――という。―――良かろう。吾ももう長くないのだろう」
悪守は声を和らげ、続ける。
「大詰めとなるかも知れぬ、――その代わり、発言の責任は取らせるぞ」
【生者必滅】
1
天正。
それは一言で、乱世であった。
別にこの時代に生まれたのではない。
明晰として覚えとるのが、その辺なだけだ。
天下統一だのには興味など微塵も無いし、話す意味もない。
―――というより、何しろ俗世から離れていたのだ。分からないだけなのだ。
当時の吾は、伊賀に居った。
伊賀というのは都合が良かった。
一揆なり、反乱なり。――混世と呼ぶに相応しい具合だった。
⋯⋯だからこそ、喰らうにはもってこいなのである。
無抵抗ではつまらぬ。
悪足掻きをするにしても、真剣・竹槍・弓―――。これらを用いた人間との応戦には血が騒いだ。
特に、妖退治だとか――。
あまりにも現実的ではない意趣をほざく若者を狙ったのだ。
二度目にはなるが、抵抗をしない者を狙うのは面白くない。
女だとか赤子だとか、そんなのは勿論、童を殺生するだなんて馬鹿らしいではないか。
―――だから、こそなのだ。
だからこそ、屈服したという事実が飲み込めなかったのだ。
人では無いにしろ、『おなごに対し、地を着いた』ということに。
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