第7話:世界のゴミ捨て場? いいえ、ここは宝の山(リサイクル工場)です

「取引、ですか」


俺はマイクに向かって短く答えた。

モニターの向こうにいる世界冒険者協会会長、ギルバートの声には、隠しきれない期待と焦燥が混じっている。


「犯罪者の処分。聞こえはいいですが、要するに処刑場代わりになれということでしょう? 汚れ仕事は外注に限る、というわけだ」

「……否定はせんよ。世界には、通常の牢獄では収容しきれぬ『異能の犯罪者』が溢れている。殺しても死なない再生能力者、触れるだけで看守を操る精神汚染者。奴らの維持管理だけで、協会の予算はパンク寸前なのだ」


なるほど。

管理コストの削減か。経営者として、その悩みは痛いほどよく分かる。


「それに、貴殿のダンジョンならば、奴らを『有効活用』できるのだろう? 我々は厄介払いができ、貴殿はリソースを得る。Win-Winの関係だとは思わんか?」

「悪くない提案ですね」


俺は即答した。

断る理由がない。

ダンジョンを維持・拡張するためには、常に大量の経験値と魔力が必要だ。それを向こうから定期配送してくれるというのだから、願ったり叶ったりだ。


「条件があります。搬送にかかるコストはそちら持ち。そして、ダンジョンに入った時点で、彼らの所有権は全て私に譲渡されること。人権団体が何を言おうと、私は一切関知しません」

「構わん。奴らは既に法的に『人間』の権利を剥奪されている。煮るなり焼くなり、貴殿のシステムの糧にするなり、好きにしたまえ」


交渉成立だ。

俺は通話を切ると、すぐにアリスを振り返った。


「聞いたな? 忙しくなるぞ。地下第二階層を全面改装だ」

「はぁ……。今度は何を作る気よ」

「決まっているだろう。世界最新鋭の『リサイクル工場』だ」


   ◇


数日後。

ダンジョンの入り口前に、厳重な警備に囲まれた数台の護送馬車が到着した。

降りてきたのは、手足に何重もの魔封じの鎖を巻かれた男たちだ。

全員が、かつてどこかの国を震撼させた凶悪犯。殺人、放火、国家転覆、禁忌の研究。

その目には、まだ反骨の光が宿っていた。


「ケッ、ここが新しい牢獄か?」

「随分と警備が薄いな。これならすぐに脱獄して、近くの村でも襲ってやるか」


男たちが下卑た笑みを浮かべる。

護送してきた協会の職員は、憐れみの目を向けながら、素早く手続きを済ませて去っていった。

残されたのは、入り口のゲートだけ。


「おい、開いてるぞ」

「馬鹿な連中だ。俺たちを野放しにするとはな!」


犯罪者たちは鎖を引きずりながら、我先にとダンジョンの中へと雪崩れ込んだ。

自由への渇望。破壊への衝動。

だが、彼らが足を踏み入れたのは、自由な世界などではなかった。


「……なんだ、ここは?」


先頭の男が立ち止まる。

そこは、無機質な白い壁と床で構成された、巨大なホールだった。

壁には無数のガラス管が埋め込まれ、中を青白い液体が循環している。

そして中央には、カプセルホテルのように整然と並んだ、数千の「棺」があった。


『ようこそ、囚人番号001番から050番の諸君』


スピーカーから、俺の声が流れる。


『当施設は、君たちの更生を目的とはしていません。労働を強制することもしません。君たちにやってもらうことは、ただ一つ』


ガシャン、ガシャン、ガシャン。

機械的な音と共に、床からアームが伸び、犯罪者たちの体を拘束した。

彼らは悲鳴を上げる間もなく、空中に持ち上げられ、それぞれの「棺」へと放り込まれていく。


「な、何だこれは!? 出せ! ここから出せぇぇぇ!!」

「俺は『爆炎の魔人』だぞ! こんなガラス、吹き飛ばして……ぐあっ!?」


棺の中で魔法を使おうとした男が、激しい電流を浴びて痙攣する。


『無駄ですよ。そのカプセルは、内部で発生したエネルギーを100パーセント吸収し、ダンジョンの動力に変換する仕組みになっています』


俺はコントロールルームで、次々と点灯していくモニターを見つめた。


『暴れれば暴れるほど、君たちの魔力は吸い取られ、私のダンジョンは豊かになる。怒りも、殺意も、絶望も、ここでは全て「電力」です』


「貴様ぁぁぁぁ!! 人間扱いしろぉぉぉ!!」


『人間? おや、君たちは法的にその権利を剥奪されたのでは? ここでは君たちは「生体電池」です。寿命が尽きるその瞬間まで、社会のために貢献してください』


プシュッ。

カプセル内に睡眠ガスが充填される。

男たちの罵声は次第に小さくなり、やがて静寂が訪れた。

モニターには、彼らから抽出される魔力値と、微量ずつ削り取られる経験値のログが表示されている。


《 システム稼働率:安定 》

《 発電量:都市3つ分 》

《 獲得スキル:『火炎魔法Lv5』『解錠Lv4』『狂戦士化Lv3』…… 》


「素晴らしい……」


俺は感嘆の溜息を漏らした。

彼らは優秀だ。通常の冒険者よりも遥かに高いポテンシャルを持っている。

寝かせておくだけで、これだけの利益を生んでくれるのだから。


「あなたって、本当に……」


隣で見ていたアリスが、青ざめた顔で呟く。


「魔王よりタチが悪いわ」

「褒め言葉として受け取っておくよ。さて、次の便はいつだ?」


俺は手元のリストに目を落とした。

協会から送られてきた、今後の搬送予定リストだ。

そこには、世界中の指名手配犯の名前と、その罪状、推定レベルが記されている。


「ん……?」


ページをめくっていた俺の手が止まった。

リストの最後尾。

そこに記されていたのは、他の犯罪者とは明らかに異質な記述だった。


《 囚人番号:特S-001 》

《 罪状:勇者殺害および聖女誘拐、大陸中央部の壊滅 》

《 推定レベル:測定不能 》

《 特記事項:不死身。過去に十三回の処刑執行を行うも、全て失敗。封印指定個体 》


「おい、アリス。これを見ろ」

「なによ……ヒッ!?」


アリスがリストを覗き込み、短く悲鳴を上げた。

彼女は震える指で、その名前を指差した。


「こ、これ……『剣鬼』じゃない! 三十年前に世界を恐怖に陥れた、伝説の殺人鬼よ! なんでこんなのが生きてるの!?」

「不死身だからだろ」

「そうじゃなくて! こんなの受け入れたら、ダンジョンごと乗っ取られるわよ! 私のシステムでも、この男の精神制御は不可能だわ!」


アリスが取り乱すのも無理はない。

「勇者殺し」。その肩書きだけで、この男の危険度が分かる。

だが。


「……面白い」


俺の中で、恐怖よりも先に、強烈な好奇心と「欲」が湧き上がった。

勇者を殺すほどの力。

不死身の肉体。

もし、こいつを完全に制御し、システムの一部として組み込むことができれば?


「アリス、迎撃の準備だ」

「はぁ!? 正気!? 受け取り拒否よ、拒否!」

「いいや、受け入れる。最高の『発電機』になるか、最強の『番犬』になるか……試してみる価値はある」


俺が不敵に笑ったその時、ダンジョンの入り口から、けたたましいアラートが鳴り響いた。

予定よりも早い。

モニターには、たった一人で護送馬車を破壊し、悠然とこちらへ歩いてくる男の姿が映し出されていた。


ボロボロの拘束衣を纏い、両目をつぶされた盲目の剣士。

だが、その体から立ち昇るオーラは、先ほどの騎士団三千人分を合わせても足りないほどに濃密だった。


男はカメラに向かって、ニタリと笑った気がした。


『――おい、ここか? 俺を殺してくれる場所は』



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

あとがき

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