幼馴染な彼女に浮気されてから俺のことを嫌っていたはずの義妹がヤンデレになって迫ってくるようになったんだが、どうすればいい?

夜兎ましろ

第1話 幼馴染な彼女に浮気されてました

 俺――如月悠太きさらぎゆうたには彼女がいる。

 中学校の卒業式の日、勇気を振り絞って学校一の美少女と呼ばれていた幼馴染――小橋川綾香こばしがわあやかに告白をし、付き合い始めたのだ。


 明るい茶髪のポニーテールと、常に楽しそうに笑う天使のような笑顔。

 有名モデルだと言われても信じるほどの整った顔とすらりとしたスタイル。

 そんな誰が見ても完璧な少女が綾香だ。


 ごく普通の学生だった俺とは釣り合わないだろうとずっと思っていたが、幼馴染ということもあって、よく一緒に遊んだりしていた。そのお陰で綾香も俺のことを好きになってくれたらしい。


 だからこそ、そんな綾香の恋人としてかっこ悪い姿は見せられなかったので、自分磨きを頑張ったし、綾香の気持ちに寄り添いながら交際を続けていった。

 その努力の成果として、周りからも「お似合いのカップルだね」と言われることも多く、そういう声を聞くたびに安堵した気持ちでいっぱいになっていた。


 だが、最近、綾香の様子がおかしいのだ。


「ごめん。今日は用事があるから一緒に帰れないの」


 これだ。

 遊びに誘ったり、一緒に下校しようと誘っても、最近は何かと理由をつけられて断られている。


 高校二年に進級してからまだ一か月も経っていないくらいだが、綾香がこんな対応をするようになったのは二年に進級してからだ。

 いくら何でも急に俺からの誘いを断るようになれば、さすがに理由を探ろうと思ったことはある。


 だけど、そんなことをすれば綾香を信用していないと思われてしまう気がして、行動に移せていない。


「最近、用事多いね」

「うん。私も悠太と一緒に帰りたいとは思っているんだけど、忙しくて。用事がないときは必ず言うから」

「……分かったよ」


 結局、今日も俺は綾香と帰れず一人で帰ることになった。

 もちろん友達と帰るという手もあるのだが、俺の友達は部活に入っている者がほとんどで、一緒に帰る相手がいないのだ。


 みんな忙しいんだな。

 帰宅部の俺とは大違いだ。


 ♢


「お、新しいゲーム出てる」


 家に帰っても特にやることはないので、近くのゲームショップに立ち寄った。

 話題の新作ゲームなどが並んでおり、ゲーム好きにとっては天国のような光景だった。

 一人という寂しさを紛らわせるにはちょうど良いかもしれないな。


「よし、家帰ったらやるか」


 今月発売されたばかりの新作ゲームを購入し、店を出た。

 寂しい気持ちを紛らわせるために購入したゲームではあるが、話題作ということもあってかなり楽しみだ。


 そんなことを考えながら再び帰路につこうとした時だった。


「え…………」


 とんでもない光景を目の当たりにした。


「綾香…………?」


 俺の視線の先には、華やかに咲き誇る桜の木の下で幸せそうな表情をした綾香が他クラスの男子とキスをしている姿があったのだ。

 見間違いだと信じたくて、何度も目を擦ったが、何度見直しても綾香だった。


 最近、俺の誘いを断る理由がハッキリした。


 あの他クラスの男子と一緒に帰ったり、遊んだりするために俺からの誘いを断っていたのだろう。

 一体、何がダメだったんだ。


 俺は綾香に釣り合う男になるために自分磨きを頑張って、綾香の喜ぶようなことをたくさんしてきた。それなのに、綾香は俺じゃなくて他の男を選んだ。

 辛い……辛い……辛い……。


 大粒の涙が頬を伝い、落ちた。


 呼吸も上手くできなくなるほど泣いた。


「なんで俺がこんな辛い思いしなくちゃいけないんだ……っ!」


 止まらない涙を拭いながら走って、帰宅した。

 俺にはその場で綾香に声を掛ける勇気がなかったのだ。


「もう帰ってきたんだ。さっさと自分の部屋に行って」


 帰宅しても酷い言葉を浴びせられる。

 両親はまだ帰宅していないらしく、家には高校入学の少し前に父が再婚して出来た新しい家族である一つ年下の義妹――小春こはるしかいないようだ。


 華奢な体に腰まで伸びた綺麗な艶やかな黒髪。

 綾香にだって負けず劣らずな可愛らしく整った顔。

 小春も学校では綾香のように大人気な女子生徒なのだ。


 そんな小春は俺のことを嫌っているのか毎日酷い言葉を浴びせてくる。


 だけど、今は……今だけはそんな小春でもいいから俺の気持ちを吐き出したかった。

 一人で抱え込むには辛い現実に直面してしまった今の俺には、俺の気持ちを聞いてくれる人が必要だった。


「もしかして、泣いてる?」

「……ごめん」


 俺が泣いていることに気が付いたようで、小春の声色が少し優しくなった。

 初めてだ。小春が優しい声色で話してくれるなんて。


「何があったの?」


 小春は俺の横に腰を下ろし、俺の背中をさすりながら優しく声を掛けてくれた。

 本当にいつもの小春と同じなのか? と疑いたくなるほどに優しい。そのお陰で少しだけ落ち着けた。


「実は――」


 何があったのか、俺が見た全てを話した。

 すると、小春は嬉しそうに笑みを浮かべた。


「え……?」


 嫌いな俺が辛い目に遭って「ざまあみろ」とでも思っているのだろうか。

 もしそうだったら、辛いな……。


「そっか。ようやく……ようやくなんだね……」

「え、何が?」

「いや、何でもないよ」

「そう……」


 何が「ようやく」なのだろう。


「大丈夫。これからは私がずーっとを支えてあげるから」

「今、お兄ちゃんって……」

「ふふっ、今日からは呼ぼうかなって思っただけだよ。今までたくさん酷いこと言ってごめんね」

「え、あ、うん」


 急にどういう心境の変化なのか分からないが、今まで「おい」とかでしか呼ばれたことが無かったのに、突然「お兄ちゃん」と呼んできた。

 それに加え、謝罪まで。


 よく分からないが、小春が優しくなったということは喜ぶべきかな。


「とりあえずお兄ちゃんは顔を洗ってきたら? 泣きすぎて目が真っ赤だよ」

「そう……だな」


 色々と混乱しそうだったが、俺の気持ちを吐き出すことが出来て良かった。

 もちろん、まだまだ引きずっていくだろうが、少しは気持ちが楽になったと思う。


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