第6話 現代最強
西園寺家が所有するビルの一室。
階層としては下層に属するいわゆる控室のようなところで、一樹は待機していた。用意してもらった灰皿には既に三本の吸い殻が溜まっていた。
四本目に手を出すかどうか悩んでいたところ、扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼いたします。御篝様のお知合いという方がお見えですが、お通ししてもよろしいでしょうか?」
「ん? えぇ、まあいいですよ」
西園寺家は真緒以外の知り合いは居ないはずだが、と首傾げる一樹。
一体誰が入っているのかと少しばかり気配に気を配っていると、爽やかな好青年が扉を開け入室する。
「よぉ。久しぶりだね、一樹」
「……環か。こんなとこで何してんだ?」
「西園寺との商談で来たんだけど、そしたら君の姿が見えてね。折角だから挨拶しておこうと思って」
「へぇ、西園寺家と商談ね。仕事は順調そうだな」
「ボチボチかな。とはいっても、君たち特殊対魔局のおこぼれを貰ってるだけだけどね」
──【超越者】環怜耶。
御篝一樹、西園寺真緒と同じく異世界帰りの勇者の一人。
そして、現世では民間退魔企業・ヴェイルフォースを起業。僅か三年で業界二番手にまで業績を伸ばした敏腕経営者でもある。
もちろん元勇者ということもあり、本人も強力な退魔師である。
「一樹こそ珍しいね。僕らとはあまり関わらないようにしてると思ったけど、西園寺には会いにくるんだ」
「別に避けてたつもりはねぇよ。何だ、環? 嫉妬か?」
「まあ平たく言ってしまえばそうかもね。僕の勧誘をあれだけ断ったのに西園寺と密会するとは、って思ってるよ」
「女々しい男はモテないぞ」
「生憎とモテてはいるんだけどね」
古い知人なだけあって、再会早々話が途切れない二人。
会話の途中、煙草の匂いを嫌ったのか、環は部屋の小窓を少し開け放つ。
一陣の風が部屋を巡る。その瞬間だった。
──強烈な揺れが二人を襲った。
「「っ!?」」
そして瞬時に気づく。揺れているのは、建物そのものだと。
「何事だ?」
「地震……にしては揺れが短すぎるね。それに──」
彼の頭上真上。身の毛がよだつほどの妖気が、建物40階分を突き抜けて、二人に届く。
明らかな攻撃である。
「上だな」
「だね。どうする?」
「今のでエレベーターは完全に逝っただろうな。階段だと時間がかかりすぎる。環は兎も角、俺はどう足掻いても3分はかかる」
「西園寺だけでそこまで持たせられるかどうか」
刻一刻を争う場面。もはや、悩む余裕はない。西園寺が場を持たせられることに賭けて、今取れる最速の手段で現場へ向かうしかない。
そう決断する二人。しかし、スーツを纏った女性が二人の行手を阻む。
「お待ちください」
西園寺グループに属する退魔師の一人であり、その手には黒く横長い箱を携えていた。
「御篝様。こちら、西園寺社長から。何かあった際に、御篝様にお渡しするよう仰せつかっております」
「……
異世界時代から一樹と苦楽を共にしてきた宝具。御篝一樹を現代最強たらしめる、鬼の金棒。
そして現世では自身の弱さへの戒めの意を込めて、一樹自身の意思で西園寺家に預けていた物でもある。
「社長からの伝言です」
──いい加減女々しいんだよ、ボケ。つべこべ言わずぶちかませ
「……っ」
「ぷ、はははは!! さすがは西園寺だね。どうするよ、一樹。女々しい男はモテないんでしょ?」
「吐いた唾は吞めない……背に腹は代えられない、か」
西園寺なりの檄と共に、一樹は黒い箱を受け取る。
現代最強、動く。
──────────
【後書き】
次回:特級
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