12話 黒蓮会の総攻撃開始

夜を裂くように、黒蓮会の紋章を刻んだ無数の影が降り注いだ。

街の外れ、炎に照らされる廃工場――そこが、総攻撃の舞台だった。


葎は、静かに構えた。

胸の奥で、あの“覚醒の前兆”がまだ燻っている。

右手が微かに震えるたび、黒い光が指先に走った。


「来たか……黒蓮会」


その呟きと同時、鉄骨の上に赤い影が舞い降りる。


◆ 〈朱の追跡者〉骸堂 朱鷺 出陣


長い鞭を引きずり、蛇のように笑う男。

鞭先には鎌状の刃が、月光を受けて妖しく光った。


「やっと、やっと……また“追える”。葎、お前は最高の獲物だ」


嗤いすら震えていた。

彼にとって葎は「狩りそのもの」――心の歪みが形になった執着。


その上空、鉄骨が重く鳴った。


◆ 〈毒華〉華蔓 VS 柚葉


工場裏の廃倉庫。

甘い香りが立ち込め、柚葉は思わず咳き込んだ。


「ひどい顔。そんなに怯えなくていいのに」


華蔓は笑う。

指先から落ちる香水の雫が、床をジュッと溶かした。


「……あの孤児院を……壊したの、あんたね」


「ええ。だって――子どもたちの“泣く顔”、可愛いんだもの」


柚葉の瞳が一瞬で怒りに染まった。

震える手で短剣を構え、足元の幻覚を踏み越える。


「今日だけは……逃がさない!」


華蔓の唇は妖艶に歪む。


「ふふ……いいわ。泣かせてあげる」


二人は幻覚と実体が交錯する、空間ごと歪む戦いへと突入した。


◆ 〈深夜の処刑人〉燐火 夜叉丸 VS 御影


工場の地下通路――静寂の中、金属の匂いが満ちていた。


御影は壁にもたれ、傷を押さえながら息を整える。

葎の“覚醒”に引き戻され、瀕死の体でここまで来た。


「……御影。まだ、生きていたとは」


闇から歩み出たのは、無表情の男――夜叉丸。


二丁拳銃を下ろしたまま、感情の欠片もない声で続ける。


「君は“暗部時代の失敗作”だ。

 再び処分しろという命令を受けた」


御影の視界が赤く揺れた。


暗部の記憶が蘇る。

無機質な訓練室。

仲間が倒れ、血が弾ける音。

生き残るために、感情を殺した日々。


夜叉丸の声が淡々と続く。


「君は弱い。情を持った瞬間に終わった」


「……違う。俺は……葎を……守るために、戻ってきた」


初めて夜叉丸の無表情が微かに歪んだ。


「情だ。それが敗因だ」


次の瞬間、銃声と鎖分銅が同時に閃き、

二人は暗闇の中で激突した――。


◆ 葎 VS 〈朱の追跡者〉&〈黒蓮の刃〉


追撃する鞭。地面を割る大太刀。

葎は何度も血を流し、膝をつきかける。


「逃げろよ、葎。追う楽しみが薄れるだろう?」


朱鷺は笑いながら鞭を振るい続ける。


羅刹は一刀一刀に殺意が宿る無駄のない動きで、

葎の逃げ場を完璧に塞いだ。


だが――葎の胸の奥で、何かが蠢いた。


“もう逃げない。

 母を奪われたあの日から……ずっと、この瞬間を待っていた。”


視界が白く、黒く、光と影が絡まり合う。


右目が灼けるように熱い。


「……これが……俺の……」


朱鷺が一瞬、息を呑んだ。


「まさか――覚醒……!?」


羅刹が大太刀を構え直し、低く言う。


「力の芽生えか……面白い」


葎の周囲の空気が震え、

黒い影のようなエネルギーが、初めて形を取り始めた――。


黒蓮会の総攻撃は、ついに本番へ突入する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る