8話 黒蓮会・幹部会議 ――静かなる狂宴
夜の深淵を思わせる黒い建造物――黒蓮会本部の最奥。
外界の月光すら拒むような地下の会議室に、ひとつ、またひとつと影が集まっていった。
中央には、漆黒の蓮を模した巨大な円卓。
沈むような暗闇の奥、ゆっくりと椅子が回転し、首領・蓮条 黒翁が姿を見せる。
その顔は年齢を測れぬほど無機質で、目だけが異様に深く澱んでいた。
「……夜叉丸が動いたな」
低く落ちついた声が、部屋の空気をわずかに揺らす。
「はい。〈深夜の処刑人〉が、例の紫苑家の娘……葎と交戦中かと」
応じたのは第三幹部・華蔓。
色香をまとった紫の着物をたおやかに揺らし、毒々しい笑みを浮かべる。
「ふふ……生き残ってくれたら、私も遊んであげたいわ。
あの子……泣く顔がきっと可愛いと思うの」
「お前は遊びすぎる」
重い声が遮る。
第四幹部・隼堂 羅刹。
鍛え上げられた体躯、大太刀を背負ったまま席に着くその姿は、獣が鎮座しているようだった。
「……紫苑家の娘は、俺が斬る。
当主を殺した俺の刃で、血筋もろとも断ち切る。それが礼儀だ」
「礼儀、ねぇ……それを言うなら、ワタシも譲れないなぁ」
テーブルに爪を立てるようにして身を乗り出すのは、
狂気をそのまま人型にしたような男――第一幹部・骸堂 朱鷺。
その眼は常に何かを追っているようにぎらつき、
葎の情報が表示されたホログラムを舐めるように見つめ、にたりと笑った。
「……あの子、良い動きをする。
逃げても逃げても追いたくなる。
“捕まえた時の顔”が、たまらないだろうなぁ……」
「朱鷺、よせ。気味が悪い」
羅刹が不愉快そうに眉をしかめる。
「気味が悪い? 褒め言葉だよ?」
朱鷺の狂った笑みが、静まり返った室内に不気味に響いた。
黒翁はその全てを無言で眺めていたが、
やがて、深い眠気を誘うような声で口を開いた。
「――紫苑の血を絶つ。
それが、我ら黒蓮会が存在する理由だ」
その言葉が放たれた瞬間、室内の温度がまるで数度下がったようだった。
「葎は……母の代で逃した“最後の芽”だ。
若いが、侮れぬ力を持つ。
そして……“あれ”が目覚めかけている」
幹部たちがわずかにざわめく。
「夜叉丸は優秀だ。しかし、想定外は常に起こる。
――もしあの男が邪魔をするのなら」
黒翁の目が、わずかに細くなる。
「御影という男も、紫苑家と共に消す」
その名を出すと、華蔓の笑みが妖艶に深まった。
「御影……夜叉丸と同じ“暗部の子ども”ね。
夜叉丸がどう動くか……ふふ、楽しみだわ」
「夜叉丸も“情”は持たぬ。
必要なら仲間でも捨てる“機械”のような男だ」
羅刹が呟く。
「それでも、ああいうヤツに限って……
“一人だけは捨てられない相手”がいるんだよなぁ」
朱鷺の言葉に、黒翁はわずかに目を伏せた。
「……だからこそ、利用する価値がある」
黒く濁った声が、円卓の中心に沈む。
「――夜叉丸が御影を殺す。
それもまた、紫苑家を絶つための一手だ」
灯りがふっと揺れ、部屋にさらなる闇が落ちる。
「さて……始めよう。
黒蓮会の“最終計画”をな」
蓮条 黒翁の冷たい声が響いた瞬間――
上空では、葎と夜叉丸の激しい衝突音が遠く微かに震えていた。
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