ローズマリー
tona
マリーとして
第1話 目覚め
私はふっと目覚めた。くもの巣の張った天井が目にとびこむ。
「・・・ここはどこ?」
すると、起きた気配を感じたのか、一人の女性が部屋にとびこんできた。
「やっと起きたのね!心配してたのよ!」
「・・・私は何日寝てたの?」
「五日よ。ずっと目覚めてなかったのよ。ああ、よかった」
心底安心した顔をしている女の人をじっと見つめた。桜色の髪に、金色の瞳。あまり容姿に気を使っていないのか、あちらこちらにすすがついている。
「ごはんつくるわね。おとなしくしてるのよ、マリー」
そう言って女の人は部屋を出て行った。マリー、と口の中でつぶやく。その瞬間、
「・・・!!」
激しい頭痛がした。自分のもののようで自分のものではない記憶が一気に頭の中を埋め尽くす。気持ち悪い。吐き気がする。うずまく記憶が少しずつ収まっていく中、記憶をざっくり整理していく。
私の名前はマリー、銀色から青色のグラデーションの髪に、空色の瞳をしている。あの女の人の名前はリリー。父親は銀色の髪と褐色の瞳をしたアダム、姉は紅の髪に桜色の瞳をしたエリアーヌ。
でも、と思う。私は孤児だ。こんな派手な見た目の家族なんていなかったはずだ。第一、私は二十歳だ。こんな幼い姉がいるなどおかしい。
すると、ある記憶が頭の中をよぎった。
あの日は、中卒であるだけでこき使う上司の命令を何とか全てこなし、家に帰っているときだった。青信号をわたっていると、超高速のトラックが接近してきて・・・。
死んだのか。あっけない死だ。ということは、これは転生?不憫に思った神様がやり直す機会をくれたのか。だとしたら、ありがた迷惑だ。やり直しなんてしたくない。
誰かから認められたかった。すごいねって言ってほしかった。ただそれだけのために何でもやってきた私にはもったいない話だ。私を見て、私を愛して。そんな感情が人一倍大きかった私は、同僚からも遠巻きにされていた。
そんな私は、これからいったいどうすればよいのだろう。記憶を見る限り、三人は私のことを愛してくれているようだった。それを信じてもいいのか。愛を求めて、前世のような思いはしなくてすむのか。
「マリー、おはよう。やっと起きたの」
色々考えていると、エリアーヌが部屋に入ってきた。てきぱきと私のおでこを触ったり、汗をぬぐったりしてくれる。
「うん、熱はないね。体のほうはどう?」
「すっきりした。あと、おなかすいた」
ずっと寝ていたのだ。私のおなかがくぅと鳴く。
「今母さんが腕によりをかけておかゆ作っているから待ちなさい」
「わたし、お肉が食べたい」
「病み上がりのくせに食いしん坊ね」
と、くすくす笑った。エリーヌが笑うと、なぜか気持ちがふっと軽くなった。
この世界に私がいてもいいのか。そう悩んでいるけれど、このまま過ごしてみても悪くない。
そんな気持ちがふつふつと出てきたのであった。
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