episode2 神城隊

関東が“白い悪夢”に呑まれてから一ヶ月。

神城シンジは沖縄米軍基地での地獄のような訓練を経て、ついに前線部隊の正式隊員となった。


◆ 入隊からの一ヶ月


訓練は、想像を超えていた。

朝四時に叩き起こされ、砂浜を二十キロ走る。早朝の射撃訓練、格闘術の反復、デバイスという新兵器の適応テスト。

夜になっても休みはなく、倒れ込むようにベッドに沈む毎日だった。


だが神城には、誰よりも強い理由があった。


――古賀を殺した奴らを討つ。

――古賀が守りたかったものを守る


心の奥で燃え続けるその誓いが、彼を立ち上がらせ続けた。


そしてついに、神城は最新兵器デバイスとのシンクロテストを受ける日が来た。


◆ デバイスとの適合

デバイスとは普段は銃のような見た目をしているが、「解除」という音声認識で、使用者をエネルギーが包み騎士のような鎧を纏うことの出来る新兵器である。

この姿になると、身体能力は大幅に強化されるが欠点がある

•高出力モードは10分が限界

•使用者のシンクロ率によって出力が変わる

この2点である

その新兵器のテストに神城が挑む。


他の隊員のテストも終わり、ある訓練施設。

白い蛍光灯に照らされた巨大モニターと無機質な施設で、研究員の前に立つ神城は、深く息を吸った。

古賀の最後、もかの泣き声、ユカの悲鳴、白い化け物の咆哮。

あの日の惨劇

すべてを胸に抱えたまま、神城は声を絞り出す。


「……解除ッ!」


瞬間、デバイスから青い光が爆発し、神城の全身を包み込んだ。

蒼炎のようなエネルギーが皮膚の下を走り、黒い装甲が騎士のような形で形成される。


「し、シンクロ率……85%だと!?

 平均57%のはずだ!ありえん……!!」


「装甲のラインも青く発光している!他の兵士には存在しない現象だ……!」


基地がざわついた。

彼の出力は、軍が求めていた“特攻戦力”そのものだった。


そして日本とアメリカは、この未知の怪物――

白い化け物を「アンノウン」

黒い化け物を「ゼロ」

と呼称することを正式に決めた。


ゼロは敵か味方かわからない存在として、軍の機密分類にも乗るようになる。



■ そして実戦へ


ほどなくして神城は戦場へ投入された。


他の隊員たちもデバイスで戦っていたが、神城の圧倒的な機動力と攻撃力は別格だった。

次々とアンノウンを討ち倒していくその姿は、まさに部隊の希望だった。


軍は彼の戦績を評価し、神城を隊長とした特別部隊――

神城隊 を新設した。


任命式後、自室に戻るとユカが待っていた。


ユカ「おかえりシンジ」

優しく微笑む

神城「ただいま。」

にこやかに笑う


二人で遅い夕食を囲む。


神城「……モカちゃん、様子はどうだ?」


ユカは箸を置き、小さく瞳を伏せる。


ユカ「まだつらそうだよ……家族も失って、竜ちゃんまで……。」


神城「……そうか。俺にはユカがいてくれるが、モカちゃんには……もう古賀もいねぇもんな。」


ユカ「今度3人でご飯でも食べようか!

そしたらモカちゃん少しは元出るかも!」


神城「そうだな、そうしよう!」

最後は前向きな会話をし

静かな時間が流れた。



◆ 東京奪還作戦の始まり


その翌日。総司令が作戦室で告げた。


「いよいよ関東奪還作戦を開始する。まずは東京の都心部を奪還する。

 成功すれば、市ヶ谷防衛省を取り戻し、日本の再建が始まる。

 ――作戦期間は一週間。各隊は即時出撃せよ!」


「了解ッ!!」


兵士たちが次々と大型ヘリへ乗り込む中、神城は拳を握り締めた。


(ついに……古賀の仇を討てる、一体も残さず消してやる)

その怒りに満ちた顔を見た部隊員にも緊張が走る。


ヘリは東京へ向かい着陸。

そこはアンノウンで埋め尽くされた地獄だった。

ヘリから飛び降り


「全員、俺に続けぇぇ!!」


デバイスを握りしめ、引き金を引き乱射しながら神城は戦場に駆け出す。



◆ 巨大アンノウン


戦闘開始から数時間。

神城は他の隊員の数倍以上のアンノウンを倒していた。

他の部隊もかなりの戦果を上げていた

作戦開始3日後のことである


いつも通り神城隊はアンノウンを片っ端から撃退していた

だが突然、ビルの影から“それ”が姿を現す。


――身長8メートルを超える巨体。

――獣のように恐ろしい顔。

――地鳴りのような咆哮。


「殺してやるよ……デケェだけのカスが・・・・解除ッ!」


変身し挑むも、巨体に似合わぬ速度で強襲され、神城はすぐに苦戦を強いることになる

(こいつデケェくせに速い)

巨大アンノウンに地面に叩きつけらる


「っぐ……!」


手を大きく振りかぶり神城を叩き潰そうとする。


死を覚悟した瞬間――


ガキィィン!!


巨大な腕が止められていた。

《ゼロ》が、刀一本で怪物の攻撃を受け止めていたのだ。

そしてその巨大な腕を吹き飛ばし


「まだやれるな、人間。

 私が動きを封じる……お前が仕留めろ」


神城は一瞬迷った。


(化け物の言うことなど……だが、今は――)


「…お前が何者かは知らねぇが。今はやってやる!」


ゼロは短く笑い、

2人は呼吸を合わすように巨大アンノウンにたたみかける、ゼロは建物を斬り崩しながら巨大アンノウンの動きを止める。


「今だ、人間!」


神城はデバイスに全エネルギーを集中させ、渾身の一撃を怪物の胸へ叩き込んだ。


「喰らいやがれぇぇえ!!」


爆発。

巨体が崩れ落ちていく中、神城とゼロは少し目を合わせたかと思えばすぐに残りか雑魚アンノウンも一掃しにかかる。

次へ、また次へと、アンノウンを殲滅していく。


戦いは終わり、神城はため息をつきながらゼロに言う

「終わったか・・・しかしお前は何者なん、、え?」


気づいた頃にはゼロは姿を消していた。


◆ 東京奪還と帰郷


作戦はその後二日間で、つまりわずか計五日で成功した。

これには理由は二つ

1.神城を含む高シンクロ率隊員の活躍

2.正体不明の味方ゼロの度重なる介入


その二つによる大勝利だった。


東京の地面にはアンノウンが苦手とする特殊周波数発生装置が急ピッチで設置され、それと同時に復興作業及び避難民の帰還が始まる。


その中に、ユカやモカもいた。



◆ 荒れ果てた故郷へ


作戦後、休暇を得た神城はユカと共に練馬区へ向かった。

荒れた街を歩きながら、神城は無意識に拳を握り締めていた。


「……ひどいな。俺たちの街、こんなに……」


コンビニの前に立った。

あの日、古賀と語り合っていたはずの場所。


ユカは周囲を見渡し、かすかに呟く。


「……家族の行方、まだわからないんだよね」


「ああ。俺の親も、ユカの家族も、モカちゃんの家族も、ほぼ死亡前提の行方不明のままだ」


生きているのか、死んでいるのか。

アンノウンに姿を変えられてしまったのか。

誰にも分からなかった。


神城は瓦礫に埋もれた道路の中央に立ち、静かに目を閉じた。


「古賀……俺は、」

少し涙ぐむ神城



ユカがそっと神城の腕を掴む。


「シンジ……大丈夫?」


「……ああ。でも、まだ終わっちゃいない。

 奴らを根絶やしにしない限り、何も終わらない」


神城の瞳に、再び蒼い炎が宿る。



◆ 新たな任務


市ヶ谷駐屯地にそのまま着任した神城隊に、緊急命令が飛び込む。


「八王子米軍基地から救難信号!

 まだ奪還できていない区域で、生存者がいる可能性あり!」


神城は迷いなく叫んだ。


「了解だ!

 ――神城隊、行くぞ!」

「オー!!」


デバイスを握る手に力が入る。


(古賀……見ててくれ。

 俺は、お前が守ったものを守り続ける)


神城隊の大型ヘリが、八王子米軍基地へ向かった。


細胞戦線  episode2 神城隊  完

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