第7話 委員長の気持ち

土曜日の朝。

布団の中でようやくスマホを手に取ると、

画面いっぱいに通知が並んでいた。


『宮下、起きてる?』


送信者は 星川みなと。


続けてメッセージが届く。


『今日ヒマ? 駅前集合。十分後』


「いや急すぎだろ!」


返事を打とうとした瞬間、追撃。


『早く来いってば。大事な話なんだって』


大事な話

みなとがそれを言うときは大抵、ろくなことじゃない。


でも……断れなかった。



駅前につくと、

ピンクのパーカーにショルダーバッグのみなとが手を振っていた。


「宮下、遅い! 女子待たせるとかどういうつもり?」


「いや十分後指定したのお前だろ」


「細かいこと気にしないの。ほら、座って」


ベンチに座ると、みなとが俺の横にぴたっと寄ってくる。


距離が近い。


「で、話って?」


「委員長のこと」


やっぱりか。


「昨日の放課後、すっごい気になっててさ。あれ、完全に特別扱いだったよね?」


「特別扱いってただ話しただけだよ」


みなとがむすっと頬を膨らませる。


「宮下ってほんと鈍いよね? 女子の態度、もっとちゃんと見よ?」


「見てるつもりだけど」


「つもりじゃダメ。委員長、宮下くんのことすっごい意識してたよ?」


彼女は少し拗ねた声を出して、足をぶらぶらさせた。


「別にさ、宮下の恋愛相談に乗るのはいいんだけどさ、気になるなら気になるって言いなよ。なんか見てて、もやもやした」


「みなと?」


「あ、べ、別に私がどうこうって話じゃないし!私は友達として言ってるだけだから!」


顔を赤くしながら早口になる。


(ツンデレ、二人目?)


そう思っていると、

みなとが急に真剣な目で俺の腕を引いた。


「宮下、あんたほんとに困ってないの?」


「困ってるって?」


「恋愛相談ばっかされて。女子に囲まれて。

私だったら、ちょっと気が休まらないよ」


みなとは俺の顔を覗き込んできた。


「なんかあったら、私にも言いなよ。あんたのこと、放っとけないし」


胸の奥が少しだけざわついた。


そこへ


「宮下くん?」


振り向くと、

買い物袋を持った ひかり がこちらに小走りで近づいてくる。


「えっ、みなともいるじゃん! 二人でデート?」


「で、デートじゃない!」みなとが即否定した。


俺も慌てて手を振る。


「違う。ただ呼び出されただけで」


「ふーん?」

ひかりは興味深そうに俺とみなとを交互に見る。


「もしかして委員長の話?」


「なんで知ってるんだよ!」


「だって気になるじゃん! 宮下くんと委員長!」


みなとが「あーもう!」と髪をかきあげた。


ひかりが言いかけた瞬間


「宮下くん?」


ひんやりとした声が後ろから落ちた。


三人で振り返る。


そこに立っていたのは 委員長。


休日の委員長は、制服より柔らかい雰囲気のカーディガン姿。

それなのに、雰囲気だけはいつものキリッとしたままだ。


委員長は、俺とみなとの距離を一度見る。

そのあと、ひかりを見て

最後に、もう一度だけ俺を見る。


「休日も、仲が良いのですね。楽しそうで、何よりです」


その声は丁寧で冷静なのに、どこか鋭い。


みなとが小声で俺にささやく。


「ね? 見た? あれ完全にヤキモチだって」


「いや、そんなわけ」


「絶対ある!」


ひかりもこっそり頷く。


委員長は少しだけ視線を落とし、言った。


「宮下くん。その相談ごとが増えているようですが」


言いにくそうに指先を服の裾に触れ


「無理だけは、しないでください。あなたが倒れるようなことになったら困りますから」


「委員長」


「それでは。失礼します」


委員長は一礼して去ろうとする。


だがその背中は、どこか微妙に硬い。


みなとが俺の袖をつまんだ。


「宮下ほんとに気づいてないの?」


ひかりも言う。


「委員長、絶対気になってるよ。しかもけっこう真剣に」


俺だけが置いていかれているような空気だった。


胸のざわつきは、もう無視できそうになかった。





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