第3話 今日は唐揚げが欲しい

 屋上のドアを開けると穂香が先にご飯を食べていた。

 隣に座って弁当を袋から出す。


「今日は唐揚げ」

「予想してたことが当たりましたなぁ~」


 穂香の予想が当たったことに驚きつつ弁当のフタを開ける。

 大きな唐揚げが三つ、キャベツと玉ねぎとしいたけの野菜炒めが入っていた。

 

「ご飯は?」

「今日はお母さんが忙しくて。でも、ご飯はあるよ」


 もう一つの容器を取り出してフタを開けると、ご飯が敷き詰められていた。

 今日は二段弁当方式みたい。いただきますと口にして唐揚げを一口食べる。


「どう、どう?」

「美味しい。お肉が柔らかいし、生姜とニンニクの香りが効いてる」


 僕の言葉を聞いた穂香は食べたくなったのか、箸で唐揚げを取ろうとするも上手く取れない。

 「う~」や「あ~」と悪戦苦闘する声が聞こえる。見かねた僕は唐揚げを穂香の弁当箱に入れた。


 穂香は目を輝かせて唐揚げにかぶりつく。目がカッと開き、物凄いスピードでご飯をかき込む。

 口を動かしながら僕の方を向く。相当美味しいのが伝わってきた。

 この事はお母さんに話そう。きっとやる気を出してくれるに違いない。


 穂香が口の中の物をごくりと飲み込むと、僕の弁当箱に肉団子を入れていた。

 もしかして昨日の事を気にして――

 

「本当はあげたくないけど……仕方ないからね」

「ありがとう穂香」


 穂香に笑顔を見せる。穂香は俯いて小声で何か言っていたけど、僕には聞こえなかった。

 まあ聞かない方がいい事もある。そう考え、取り敢えず肉団子を一口食べた。


「美味しい」

「良かった。でもこれ普通に買ってきたやつだから。手料理じゃないんだ~残念でした~」


 騙された。でも、こういった恋人らしいやり取りができるのは嬉しい。

 そんな幸せを噛みしめながら食べ進める内に、気が付けば食べ終わっていた。


「ごちそうさまでした。肉団子、美味しかった」

「唐揚げも美味しかった。ごちそうさま」


 えへへと笑う穂香は可愛くて、息をするのを忘れてしまった。そんな僕を見て穂香は慌てて表情を戻す。

 戻して欲しくないと思ったけど、この顔がいつでも見れるのが僕の特権だ。


「もしかして私に惚れてるのかぁ~?」

「そうだけど」

「そこはさ……はぐらかしてよ」


 ダメだ気まずい。僕も穂香も話を進められる状態じゃない。今日は教室に戻ろう。

 立ち上がった僕だが、腕の裾をくいっと引っ張られる。見ると穂香が少しむくれた顔をしていた。

 なぜそんな顔をしているのか分からないといった様子の僕に、穂香が言う。


「もうちょっと、側にいてよ」


 その言葉を聞いた僕は、またベンチに座る。

 特に何をする訳でもないまったりとした時間。そんな時間が心地よく感じることに、僕は驚きを隠せなかった。


「やっぱり穂香には敵わないな」

「何それ」

「ふふっ……」


 教室に慌てて戻ることのないようにしたいと思いながらも、この時間が永遠に続いて欲しいと僕は願った。

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