第2話 今日はハンバーグが欲しい

「敬ー! お弁当……もう食べてる!?」

「お昼だから当たり前です……だよ」

「敬語使ったでしょ」

「つ、つか、使った」


 恥ずかしい。顔を背けた僕を覗き込むように穂香が僕の弁当を見る。

 今日はハンバーグ弁当。手のひらほどの大きさのハンバーグが二つ、ミニトマトにブロッコリー。人参のグラッセも入っている。


 フタの空いた音で穂香の方へ顔を向ける。白身魚のフライやきんぴらごぼうが乗った弁当が姿を見せた。

 肝心の海苔が無い。不思議そうな顔をする僕に対して穂香が答える。


「海苔は切らしてて無かったの」


 なるほど。ご飯を口に含みながら返事をする。

 いただきまーす、と元気な声で穂香が食べ始める。一口食べるごとに体を揺らしているのを見ると相当美味しいのが伝わってくる。


「敬のハンバーグも食べたい!」

「いいよ」


 ハンバーグを箸で半分に割り、穂香のご飯の上に乗せる。

 穂香がご飯とハンバーグを一緒に食べると、嬉しそうな声を上げた。

 

「おいひい」

「良かった。お母さんも喜ぶよ」


 固くもなく柔らかくもなく、それでいて肉汁が染み込んだお母さん手作りのハンバーグ。本当は誰にも食べて欲しくないけど、穂香にならあげてもいい。

 当の穂香は僕を見つめてハンバーグをねだるけど無視して食べた。


「けち~」

「大好物はあげないから」


 その後も黙々と食べ進め時刻は十二時三十分。ほぼ同時に食べ終わる。


「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまー。ハンバーグ美味しかったよー!」


 穂香にそう言われると照れる。お母さんが作った料理なのにこっちまで褒められている気分になる。悪い気分じゃない。


「ところで敬、なんで敬語使ってたの?」

「それは……」


 どう説明すればいいか。昨日思った事をそのまま言えばいいだけだろと頭の中の僕が囁くが、なんか嫌だ。

 こんな余計なプライドは捨てればいいのに何故か捨てられない。


 無言が続く中、穂香が弁当を袋に入れて立ち上がる。僕の目の前に立つと唇に付いていたご飯粒を取って自分の口に入れた。

 固まって動けない僕に穂香は言う。


「自分に自信が無いからでしょ」


 図星の言葉に空の弁当を落としそうになる。慌てて袋に入れて向き直る。


「それは……そう」

「やっぱり。敬は私の立派な彼氏だよ。だから自信もっていい」


 そうか。僕は自分に自信が無いなんて思ってたけど、関係ない。なら改めて言おう。


「穂香の言う通りだ。僕は自身が無くて敬語を使ってた。穂香に僕は相応しくないと考えてたけど、立派な彼氏になるよ」

「もうなってる。だからこれからも、私にお弁当のおかずちょーだい!」


 ベンチから立って逃げる僕を追いかける穂香が言う。


「逃げないでよー!」

「僕はおかずが減ってるから! たまには穂香のおかずも欲しい!」

「考えとくけど、多分無理!」


 そのままの勢いで僕達は屋上を後にする。

 穂香に追われながら、いつかは穂香の弁当のおかずも食べたいと考えるのだった。

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