第13話 解読の行方 ◆伴のメモ①
■2025年5月25日(日) AM 10:00
――莉乃の部屋にて―
ChatGPT-5.0【リリィ】の文字起こし。
その内容に颯馬はしばし言葉を失っていた。
綾先生と朔夜先輩との関係。
しかし、それ以上に綾先生が治らない病気の療養中だという重い事実。
颯馬は心痛な面持ちで目を固く閉じた。
莉乃の手によって強制終了に至ったと思われるラストの結び。
それだけ二人の間柄は親密であることは間違いない。
莉乃は最後まで録音データを聴いたのだろうか。
あぁ、目を覆いたい気分だ。
颯馬は莉乃を
「これを聞いてどう思った?」
「正直に言うけど、私たちにとってツラい事実なのかもしれないね」
なるほど。
その一言に集約されると言っても過言ではない。
莉乃もやはり胸が苦しいのだ。
「だから同盟を組もうと?」
「ダメかな? いずれ共通の目的になると思うけど」
「組んでもいいけど、先生と先輩には秘密が多すぎる」
「だよねぇ。でも私たちならきっと解き明かせると思う」
莉乃の前向きな思いが心に温かく浸透する。
一体どこからこの謎たちを解いていけばいいのか。
再度、颯馬は冒頭部から目を通していく。
「莉乃、紙とペン、あとパソコン借りるぞ」
「はいよぉ。もしかしてこれを全部解読するつもり?」
テーブルに置かれたA4用紙を前に黒のボールペンを握る。
「全部は厳しい。【リリィ】ちゃん借りるぞ」
「え? まさか……」
莉乃は颯馬の意図がなんとなくわかったような顔つきになる。
「
「やばっ……肝心なところ抜けてた。確かにそれを使わない手はないね」
コピーした会話文全体をリリィの質問文としてペーストする。
ものの数秒でリリィに大量の文章を送り込むと、可愛らしい砂時計マークを浮かび上がらせる。
三十秒後、要約文が表示されると、颯馬はUSBメモリーにその内容をコピペして保存した。
❈
颯馬は念のため、読み込んだ内容とリリィの要約文とを読み比べる。
さほど内容に違いがみとめられないため、リリィのほうを優先し、莉乃への概説を終える。
莉乃は半ば驚き
「スゴいね。そんなところまで分かるなんて。わたし全然わかっていなかった」
「俺の仮説も入っているからな。ちなみに事実と私見とが混ざらないようにすることが大事だぜ」
「ふぉ〜 名言チックだね。それ」
現時点で疑問点や不明点は当然含まれている。
後で活用できるよう、手書きで赤を入れておく。
「こうしてみると内容てんこ盛りだね」
「本当だよ。てかよくこんなにデータを残せたな」
「いや、私は録音しただけだよ。文字に起こしたり要約したのはリリィちゃんや颯馬くんだし」
颯馬の読解力を羨ましく思う莉乃。
お互いにとって相補的な関係は、双方に様々なメリットがある。
だからこの関係性は大切なんだと以前お父さんが言っていた。
颯馬くんとはうまくやれそうな気がする。
彼の横顔がいつもより凛々しくみえた。
「じゃあ、これでおいとまするわ」
「えっ? お昼食べていきなよ。まだ時間あるし、ゆっくりしていけばいいのに」
「長居は禁物なんだよ。特に男が女の子の家にいる場合」
「ウチは全然平気なんだけどなぁ」
お前じゃなくてお前のご両親の心象に影響するんだよ。
莉乃の両手には颯馬がまとめた資料の束が握られている。
時刻は十時半。
親父は起きているだろうか。帰って洗濯でもするか。
歩いて五分圏内だし気楽だな。
「また部室でな」
「あ、うん。颯馬くん、また来週の日曜ウチに来てね」
「あ? あぁ、考えておく」
「考えなくていいから来てね!」
莉乃の顔に熱がこもっているのか、少し赤ら顔だ。
それには構わず颯馬は手をひらひらさせながら部屋を後にした。
ご両親にご挨拶をと思い、階段を降り切ったその時、横から声をかけられた。
莉乃の父・康一からだ。
「おや、颯馬くん。もうお帰りかい?」
声の方を見る。
父親は目尻に綺麗な三本の
「ええ。あまり長居できないもので。お邪魔しました」
「そうか、お昼を一緒にと思ったんだが、またの機会にするか」
「申し訳ございません」
斜め四十五度で腰を折る。
「いや、いいんだ。莉乃が男の子を家に連れてくるなんて今回が初めてだったものだからね。どんな子かなと思って気になっていたんだ」
「そうなんですね。初めてだったとは知りませんでした」
「あはは、礼儀正しい子で安心した。もしよければ来週の日曜もまた来ないか? 今日と同じくらいの時間に。莉乃もきっと喜ぶと思う」
「いいのですか?」
莉乃と同じようなことを言っている。
アイツの一人歩きだと思い込んでいたから、ちょっと意外だ。
「あぁ、いいとも。私や妻も颯馬くんと話したいことがあってね。予定が空いていればなんだが、どうかな」
「予定はないので大丈夫です。ではまた」
「うん、またおいで」
ドタドタと階段を降りる音が近づいてくる。
「颯馬くん、待って!」
莉乃が足早に駆け寄ってくる。
「どした?」
「また来てくれる?」
「いいとも!」
康一はそれを聞いて小さく笑うと白い歯を見せた。
莉乃もうれしそうな顔つきになって目を細めた。
「失礼します。お邪魔しました」
「気をつけてな。親父さんの誠二郎くんにもよろしく伝えてな」
最後に一礼。
莉乃は大きく手を振って花を咲かせている。
ドアを開けると初夏の風がふわりと
門扉を閉じて表札を見た。
【中村 康一・友美・莉乃】その横に犬の文字のステッカー
三人家族――莉乃は一人娘。
年頃の一人娘を守る親の気持ちはどんなものだろう。
あの日、夜遅くまで付き合わせ心底怪しまれると思ったが、全くそのようなそぶりを見せなかった。
むしろ歓迎されるほどだった。
きっと莉乃が俺のことを過剰評価でもしたのだろう。
また来週ここへ来るのか。
二階建ての注文住宅をしばし眺めると、颯馬の心に一つの記憶が引っかかった。
莉乃のお父さん、何で俺の親父の名前を知っていたんだろう。
家庭訪問の時に担任の先生くらいしか知り得ない情報だ。
もちろん、莉乃には言った覚えはない。
小さなわだかまりが黒いモヤとなって心底に
――【颯馬のメモ】――
◇◇わかっていること
【綾先生】について
◇事実
・旅行先(バリ島)でウイルス感染
→ ワクチン無効・治療難航 → ウイルスに対する免疫あり・延命
→ 出産後3日目で何者かに拉致される → 病状悪化 → 意識消失
→ 病院から治験施設・
→ 治験中
→
→
→ 接触を避ける為、学校に移り住む
→ 私物をドローン輸送 : 朔夜兄弟が関与
→ 朔夜先輩(弟)と婚約
→ GPSを警戒、他者への情報開示は否定的
◆私見
・婚約にはお互い同意? それとも先輩から一方的?
→ 先生のご主人は未だ行方不明なのに婚約? 離婚届や死亡届は提出済? 先輩からの一方的な求婚の可能性が濃厚か
・GPSを警戒。颯馬や莉乃には秘密の内容?
・先生は部室に本当に寝泊まりしている? → いつまで?
・婚約するくらいなら同棲すればいいのに
→ 先輩はそれには否定的?
・
→ 先生は治験を受けたいと思っていない(好意的ではない)
→ この先、
【朔夜先輩】について
・ミス研OB・今年大学一年生 → T大情報科学部
・綾先生の夫(現在行方不明)に似ている → 先生の精神安定化
・綾先生と婚約している
・複製済みの部室の鍵を所持
・綾先生の私物を運んでいる → 朔夜兄と協力?
・カーテンで外界から部室内を遮蔽
・GPSを警戒、他者への情報開示は否定的
【あいは(予言者Vtuber)】について
・予言が当たると評判のVtuber
・予言の中にラヴィ―ズの章について触れている
・【あいは】の悪口言う人はラヴィ―ズに消される(都市伝説)
・
→ 上野公園の地下に存在する治験施設
→ 病院の地下と連絡通路あり(関係者のみ通行可)
◆わからないこと
・時系列について
→ 先生はいつから先輩と知り合ったのか
→ いつまで学校に移り住むつもりなのか
→ 先生がいつから
・【あいは】について
→ 本人の素性が全くの不明
→ なぜ予言が当たるのか
→
・
→ 本当に存在するのか? なぜその場所なのか?
→ 何を目的に活動をしているのか?
→ 治験を病院側とお互い協力体制を構築しているのか?
→ 違法な医療行為を行なっている可能性はあるのか?
→
→ 今後、綾先生を治験のため拉致する可能性はあるのか?
・ウイルスについて
→ 先生は何からどうやって感染したのか。
→ それとも何者かに故意に感染させられたのか?
→ ご主人は感染していない? 子どもも感染?
→ 完全な治療法はない?
・先生の住まいについて
→ 居住地は不明
→ 今までに引っ越しはあったのか(精神的負担が大きい時、転居する傾向にあるため)
◆◆スワンボートでの会話も含めた場合
◇◇わかっていること
・綾先生は今年で40歳。ひとりで暮らしている。
→ 赤ん坊が生まれたのは今から17年前の2008年、先生が22歳〜23歳のときに出産
→ 出産後三日目に子どもが行方不明
→ その後、ご主人が行方不明
→ 警察への捜索願は依頼済み・学校関係者には伝達済み
◆◆わからないこと
・夫子の生存について
→ 先生のご主人や子どもは生きているのか? それとも既に死亡しているのか?
→ いずれにせよご主人の存命が不明確な時期において、先輩との婚約は懐疑的
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