第31話 黒鉄の飛竜
カミーユ達は、遠く大きな山脈、巨人たちの言葉で言う、巨人の盾を望む、エルサ河の畔に来ていた。
この河は太く広く、とても見通しが良かった。
カミーユの兵たちと騎士クラリスは、乗馬し、河原に居た。
彼らは弓を持っていた。普通の人間の為の弓だ。
そして、湖畔には、巨人たちが狩ったイノシシたちが横たわっていた。
巨人の戦士たちと、カミーユたちで案じた黒鉄の飛竜を打ち取る作戦は、以下のようなものだった。
一、飛竜たちの巣がある、巨人の盾の山脈から見える見通しの良い場所に、彼らの好む餌を置く。
二、餌の周りに兵を置く。これは足の早い騎馬とする。巨人たちは置かない。
三、餌につられて飛竜たちが現れたら、騎馬達はこれを射て応戦する。距離を取り、決して近づかない。
四、その隙に、森に隠れたカミーユが、その強弓により、黒鉄の飛竜を射落とし、毒針を手に入れる。
カミーユの熱と火の魔法を使うことも検討されたが、その火が熱すぎて、毒針まで燃やしかねないということで、廃案となった。
カミーユは森に伏せた。
フローラは、カミーユの側に侍っている。伝令かつ、カミーユに矢を渡す係りだ。
一時間ほどたった。
カミーユの目に、高く遠く、黒雲のようなものが見えた。
それは次第に大きく疎らになり、飛竜の群れであることがわかった。
数はおよそ二十匹。
騎士クラリスと、十騎の騎兵が立ち向かえば、命はない。そのための駿馬たちだ。
空を飛ぶ飛竜よりも疾く駆け、爪や牙、毒針の届かぬところへ移動する。
カミーユはフローラに伝令を頼む。騎士クラリスたちに飛竜の群れの飛来を伝えさせる。
その間にも、飛竜の群れは近づいてきている。あと十分もすれば、河原の上空に到達するだろう。
カミーユのもとにフローラが戻り、クラリスたちに伝令が無事に伝わった。
カミーユは側に寄るフローラの頭を無意識に撫でる。茶色く癖のある毛が長く白い指に絡む。カミーユの手はフローラの首筋へと下り、その首を撫でさする。
フローラは主人の緊張を感じ、大人しく撫でられていた。
やがて、飛竜の群れがエルサ河の畔にたどり着いた。飛竜たちは積み上がったイノシシの死骸目掛けて、次々と降りてくる。
騎士クラリスと騎兵たちは、降りてくる飛竜に向かって矢を放つ。
群れの長、黒鉄の飛竜ではない通常の飛竜たちに対しては、騎兵たちの矢も十分に効果的であり、幾つもの矢が飛竜たちに突き刺さった。
矢は、飛竜たちの命を奪うほどではなかったが、その痛みは飛竜の逆鱗に触れた。
飛竜たちは、怒りに任せて低空を飛び、騎兵たちに襲いかかった。
騎兵たちは逃げるように馬を走らせ、振り返って飛竜たちに矢を放つ。
飛竜たちはそれぞれの目標に向かって羽ばたき、怒りを撒き散らす。
カミーユはひとまず安堵の吐息をつく。飛竜たちの行動は統率が取れておらず、各々が思うがまま、勝手に騎兵たちを追っていた。
これが、例えば狼の群れように、統率の取れた動きであれば、駿馬たちとは言え、逃げ場を失っていたかもしれなかった。
カミーユは空を見上げる。飛竜の群れの長、黒鉄の飛竜は、翼を広げ悠々と空を飛んでいる。高度は高く、カミーユの強弓をもってしても、致命傷を与えるには難しいと思われた。
これは狩りである。一撃で致命傷を与えられなければ、翼を持った飛竜は遠く逃げ、二度と麓まで飛んでこないかもしれないのだ。
カミーユは弓を射る為に空を見つめ続けた。
地上では、飛竜たちの馬への追い掛けが続いている。
これはいつまでも続けるわけにはいかない。馬の体力も無限にあるわけではないのだ。
いつか飛竜に追いつかれ、その爪と牙、そして尾の毒針を受けることとなるだろう。
カミーユは、弓に矢を番えた。いざと言う時は、今の高さでも射なければならない。
フローラに目配せをする。二の矢、三の矢が必要となるかもしれない。
一方、騎士クラリスと騎兵たちは、巧みにかばい合い連携し、弓矢を飛竜たちに射掛けていた。
矢は飛竜たちの体中に突き刺さり、矢傷によって地上に落ちる飛竜も出始めた。
「矢を大切に使え。落ちた飛竜は無視して良い。時間を稼ぐことを優先するのだ」
騎士クラリスの声が響き、騎兵たちを叱咤する。
騎兵たちもそれにこたえ、愛馬たちへ意思を伝える。
その時、地上に降りた群れがいつまでも帰ってこないことに苛立ったのか、上空の黒鉄の飛竜が、けたたましい吠声とともに、地上へ向かって滑空した。
今。
カミーユは引き絞った弓を天に向け、矢を放った。矢は音を超えて飛び、黒鉄の飛竜の腹部に当たった。矢は黒鉄の鱗を貫き、腹部を貫き、背から抜けていった。
外した。
カミーユはすぐさまフローラから二の矢を受け取り番える。
竜の生命力は凄まじい。心臓を射抜く必要があった。
黒鉄の飛竜は大地に降り、騎兵に向かって尾を振り回した。騎兵は尾の可動範囲にいた。
犠牲者が出る。
カミーユは心臓への射角を確保できず、すぐに射ることができない。カミーユは神に祈った。
しかし、その騎兵は騎士クラリスであった。クラリスは即座に抜刀し、巨大な毒針を馬上で受け流した。衝撃で馬が倒れたが、クラリスは受け身を取り、回転し、素早く立ち上がった。
騎士クラリスは黒鉄の飛竜に向かって剣を向ける。
その瞳は闘志に燃えており、黒鉄の飛竜の意識を集めた。
尾を剣で弾かれた飛竜は、今度は牙で噛みつき、爪で切り裂こうと、騎士クラリスに向き直った。
そして、爪を振りかぶった。翼を振り上げた事により、飛竜の脇腹が見えた。
今。
カミーユは二の矢を放った。矢は音の壁を貫き、黒鉄の飛竜の右脇の鱗を貫いた。
矢はそのまま飛竜の体内を貫き、心臓に到達し、それを射抜いた。
矢は左脇から抜け、黒鉄の飛竜の胸の左右に大きな穴が空いた。
黒鉄の飛竜は、ゆっくりと倒れた。傷口の大きさの割に、出血は僅かであった。
心臓が破壊されているためである。
騎士クラリスは、飛竜が地面に倒れ伏し、その身が完全に動かなくなるまで、剣を構え続けた。
それは、竜という生き物の持つ生命力に、畏怖と敬意を抱いているように見えた。
カミーユは、弓から手を離し従者に預けた。そして、愛馬にまたがり湖畔へと駆け出す。
他の飛竜たちは、燃え尽きても問題はない。
手加減は不要。
魔力を汲み上げる時間も十分にある。
カミーユは、馬を駆けさせながら、自らに流れる竜の血から魔力を汲み上げ、それを炎に変える。
そして、低空を飛んでいる飛竜の一群に向けて炎を放った。
眩しい閃光が辺りを照らした。それはまるで小さな太陽であった。
衝撃波と熱が周囲を舐め尽くし、飛竜たちを飲み込んでいった。
圧縮された空気は地表にも伝わり、騎兵たちの中には馬が転倒するものもいた。
圧倒的な破壊の力。カミーユの放った炎の玉は、飛竜十匹を焼き尽くした。
燃えて炭になった飛竜たちが地面へ落下した。
その炎を見た残りの飛竜は怯え、矢が刺さった羽を広げて、空に飛び上がる。
カミーユはそれを見送る。
目的の黒鉄の飛竜は倒し、毒針を得た。これ以上飛竜たちを落とす必要はなかった。
騎兵たちはカミーユのもとに集まり、歓声を上げた。
こうして、カミーユの黒鉄の飛竜退治は終わった。
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