ADORABLE

野宮麻永

第1話 天高く

空が高いとか低いとか、いつも同じに見えるけど……?


上を見て歩いていたら、スニーカーが落ち葉を踏んでカサッと言う音を鳴らした。



やばっ!



家の近くを流れる川沿いには遊歩道があって、そこを家族の末っ子ダックスフンドのダンクと散歩に行くのがわたしの日課だった。


その遊歩道沿いには桜並木があって、春になるときれいな花を咲かせる。それが今の季節だと紅葉した葉が……葉が……落ち葉となって、桜の木の根元に積もってる! おまけに辺りを生い茂る草むらには――



やらかした!


短足くんのダックスフンドには要注意だったのにっ!!!



いつもは下を見ながら歩くところを、今日は上ばかり気にしていた。

それもこれも「天高く馬肥ゆる秋」というのを耳にしたせいで……


恐る恐るリードの先を辿ると、わたしが目を離したせいでダンクは草むらに鼻を突っ込んで自由を堪能しているところだった。



「そうなるよね……」



わたしの声にダンクが顔を上げた。何という得意げな顔。

その耳にはオナモミがくっついている。それも一つや二つじゃない。この分だと草に隠れて見えないでいる胸毛もお腹もすごいことになっていそう。



「どんだけ楽しんだのよぉ? ダンクっ!」



ツンとリードを引っ張ると、ダンクは草むらからぴょんと出て来た。そのふさふさの尻尾には小枝や落ち葉が絡まっている。



「お土産がいっぱいすぎるよ?」



これは家に帰ってからブラシで格闘するしかない。オナモミや小さな葉っぱはあきらめて、尻尾にくっついてきた大きな小枝だけ取っていると、長い影が足元にさした。



「名前、聞いてもいい?」



声はしゃがんでいるわたしの頭の上から聞こえる。見上げると、背の高い男の人がわたしを見て微笑んでいた。



ナンパ?



普段なら知らない人に名前を聞かれても教えるなんてこと絶対しないけど、そのひとがイケメンだったばかりについ答えてしまった。ちょろいな、わたし。



「海……です」


「海ちゃんっていうんだ」



相手はどう見たって年上。これは、年の差レンアイってやつの始まり???

溺愛ルートまっしぐらっ?



「女の子?」



Why……?


その質問にやや冷静になる。

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