第19話 貧乏神のカモになりかけていた?!

 信濃氏はビールをすするように飲みつつ、つい先ほど土田法律事務所に来た人物について話を進める。


「今日のあの宮島って人だが、ぼくが見た限りも、典型的な詐欺師か事件屋の風貌そのものだった。あの手の人ってね、隙のない格好で仕事されているわけだ。それは相手に信用されてナンボの商売だから。詐欺師はともかく事件屋なんて、いかにもな人相風体、それこそやくざの幹部クラスでもチンピラっ気の抜けない雑魚に毛が生えた程度の雰囲気なんか出さない。そんなことしたら逆に恐喝あたりで警察を召喚、ってところがオチだ。彼らのターゲットは、小金のある人たち、あるいはこれから金を稼ぎ始めようとしている、それこそ土田君みたいな若手を狙う。そういう人らに信用してもらうに手っ取り早いのは、何だかんだでビシッとした姿格好をして、いかにもな風体を作り上げること。無論、教養もあの手の人にはもとよりもしくは自ら選んでかはともあれ、土田君が見ても教養ある人間という態度をきちんと維持する。間違えても粗暴系の恐喝や強盗を働く人たちに見受けられる行為に向かうことはない。そんなことする必要もない状況をちゃんと作っているのよ」


 これまでいささか焦りを見せていた土田氏、ここにきて少しは落ち着けたようである。無論、佐敷サンが何かの仕掛けをしたわけではない。今日も彼女は竹かんざしをポケットに入れてはいるが、特に何か仕掛けをすべく触れるようなことさえしていない。もっとも彼女はそのかんざしがなくても何かをしかけられたりはするのだが、そんな姿さえ、ここでは見せない。今もなお、目の前の刺身や焼鳥などを食べつつ、残っていた枝豆を時につまんだりしながら、ゆっくりとビールを口にして体に無理のない程度に流し込んでいる。

 ずっと話を聞いていた土田弁護士が、信濃氏に一矢報いんとばかりに一言。


「そういう信濃さんも、ブランドスーツにボストンメガネでいかにもな人って感じが最初からしていましたけど(苦笑)」

「失礼なやっちゃなぁ(苦笑)。プレミアギザジュウでクルマにきっかき傷つけてブルートレインにしようとしたアンちゃんにだけは言われたくないね(爆笑)。

 こう云う格好したらみな事件屋や詐欺師ってわけでもなかろう。今の土田君の論理で行けば、ベンツに乗っていたらみなヤクザ、みたいな偏見に限りなく近いステレオタイプの見立てだぜ。そこらの金物屋さんや何とか屋さんでも、ベンツくらい乗ってらぁ(爆笑)。そういう堅気の皆さんに失礼じゃないか」


「ということは、聖子ちゃんカットの中年女性を見たら、いかにも昭和を引きずったイタいおばさんってわけでもないのと一緒ってことですね(爆笑)」

 少し顔を真っ赤にした佐敷サンがむすっとしつつ笑いながら話をつなぐ。

「そりゃそうでしょう。それなら、あなたの先輩の米河君でしたっけ、彼みたいに松田聖子なら何十曲一気に歌詞なしで歌えますみたいなアンちゃんの方が、よっぽどイタい人だわ(大爆笑)。聞けば塾で生徒の前で風立ちぬの替え歌を歌ったとか何とか、セーラームーンもそうだけど、ホント、手遅れね」

「風立ちぬ、今は塾、帰りたい帰れない、あなたのうちに~♪ ってやつですね」

「それそれ。ホントしょうもない歌ねぇ」

「他にもありましたよ、確かそのアルバムの中にある歌の替え歌で、

時計の針は なぜかイジワル ひとっつも、進まない~♪

ってね。塾に来て帰りたいという女子生徒に歌って大受けしたそうですよ」


「アホかいな。でもあの御仁、あれはあれでなかなかおもろいやっちゃな」

 ビールをさらに少しばかり進めつつ、話も進んでいく。つまみは焼鳥ばかりでもない。刺身もさらに進む。信濃氏が話題を戻す。

「いやあ、このマグロはいいね。さて、セーラームーンも含めて手遅れの奴の話はいいとして、元の話に戻すよ。あの手の詐欺師はなんであんな格好しているかもこの辺でいいとして、彼らの金払いの特徴を述べよう。その前にひとつ。貧乏神的には、ああいう人には正直近づき辛い。なぜか。いかにも潤ってそうで実際いかにもな違法行為をして足をつけられるような真似をしないからだ。

 問題は彼らじゃない。彼らにかかった側だ。

 貧乏神的には、そっちの方がつけ込みやすい。今私はこうして貧困対策のコンサルタントをしているからそんなところには行かないが、貧乏神としてやっていくなら、間違いなく今日のあの人より土田君の方につくよ。確実だもん」

「ぼくは信濃さんというか貧乏神のカモ、ってことですか(苦笑)」

「悪いが、そうなる。だからこれはマジでまずいと思ったのよ。実はな、あの時、君がひっかき傷を作ったギザジュウにも、ちゃんと仕掛けをしておいたのよ」


 十円玉のひっかき傷。彼がまだ受験生だったあの夏の日、岡山駅近くの駐車場の青いスポーツカーに十円玉でひっかき傷をつけた。むしゃくしゃしていた彼を見とがめて止めたのは、まさに、この信濃さんと佐敷サンの二人だった。

 実はこの時佐敷サンは竹かんざしを振って魔法のようなものをかけていたが、信濃さんも実は、その時密かにある仕掛けを黙って仕掛けていたのである。

「どんな仕掛けを?」

 尋ねる土田弁護士に、信濃さんがそれを解説する。

「君がそういう輩にひっかからないように、危機を感じたらすぐ私のあの時の形相が思い浮かぶように、ね。これはワラちゃんの仕掛じゃない。私の仕掛だ」

「あのとき密かに?」

「そうだよ。あのギザジュウを紛失したとしても効果はある。キミは今もそのギザジュウを机の中に入れてお守りにしているだろ。ならば効果百倍よ。今日は当たるはずの万馬券が競馬場に散っていくようなことになって、残念だったな」

「勘弁してくださいよ(汗汗)」

「ま、その残念会で、今日の飲み代は私が全部おごるよ。ま、うちの会社の経費ってことにさせてもらうけどね(苦笑)」


 ビールを少しだけ口に含んだ佐敷サンが、話を続ける。

「初心忘れるべからず、ってことよ」

「じゃあそろそろ、詐欺師の金払いの特徴を述べようか」

 その言葉を受けて、信濃氏は詐欺師の金払いの手法を語り始めた。

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