第9話「相棒の覚悟と禁じられた力」
シルヴァリア魔法学園の代表選手としてユキナリは他校との対抗試合に臨むことになった。今まで彼を馬鹿にしてきた生徒たちも、今では学園の期待を一身に背負う英雄として彼に声援を送っている。その変化に戸惑いながらもユキナリは隣にいるカイの存在を確かめ心を落ち着けていた。
対抗試合は団体戦だ。ユキナリの他にセレスティア、そして皮肉にも補欠選手としてゼノンも選ばれていた。
試合は順調に勝ち進んだ。ユキナリの奇想天外な魔法とセレスティアの圧倒的な正統派魔法のコンビネーションは強力で、他校の選手たちを次々と打ち破っていく。
そして、ついに決勝戦。
相手は古くからのライバル校であるドラグニア魔法学園。特にそのエースであるクロードという男は「竜殺し」の異名を持つほどの強力な火炎魔法の使い手だった。
「いよいよ決勝だな、ユキナリ」
試合前、セレスティアが緊張した面持ちで話しかけてきた。
「ええ。必ず勝ちましょう」
ユキナリが力強く頷くとセレスティアはふっと微笑んだ。
「あなたと組むと負ける気がしないわ」
その言葉にユキナリは少し顔を赤らめる。
『おい、試合前にいちゃついてる場合か』
カイの不機嫌な声が頭に響いた。
(いちゃついてません!)
心の中で反論しながらユキナリは戦いの舞台へと向かった。
決勝戦が始まり試合は一進一退の攻防となった。
セレスティアが華麗な魔法で相手を牽制し、ユキナリが意表を突く攻撃でポイントを稼ぐ。しかし相手のエース、クロードの実力は想像以上だった。
「燃え尽きろ! ドラゴンブレス!」
クロードが放つ炎はまるで本物の竜の息吹のように、全てを焼き尽くさんばかりの勢いで襲いかかってくる。セレスティアの風の障壁もユキナリの水の壁もその圧倒的な熱量の前では長くはもたない。
戦況は徐々にドラグニア学園に傾いていった。
ゼノンは早々に戦闘不能にされ、セレスティアも魔力を消耗し肩で息をしている。ユキナリも立て続けの防御で魔力が尽きかけていた。
「これで終わりだ!」
クロードがこれまでで最大級の魔力を込めた火球を放つ。それはまるで小さな太陽のようだった。
セレスティアが最後の力を振り絞って防御壁を展開するが、火球に触れた瞬間ガラスのように砕け散る。
「くっ……!」
絶体絶命。誰もが敗北を覚悟したその時だった。
『ユキナリ! やるぞ!』
カイの切羽詰まった声が響いた。
(カイ!? でも、もう魔力が……!)
『俺を使え』
(え……?)
『俺の魂そのものをエネルギーに変換するんだ。俺の存在をお前の魔力に上乗せすればあんな火の玉、消し飛ばせる』
カイの言葉にユキナリは血の気が引いた。
(そんなことしたら、カイはどうなるんですか!?)
『……少しの間、眠るだけだ。お前の魔力が回復すれば俺もまた意識を取り戻せる。だが、もしお前が負けて心が折れちまったら俺は二度と目覚められないかもしれねえ』
それは禁じられた力。従者であるカイの魂を消費する諸刃の剣。
(ダメだ! そんなこと絶対にできない! カイがいなくなったら、僕は……!)
ユキナリは叫んだ。カイを失うくらいなら負けた方がましだ。
だがカイの声はどこまでも真剣だった。
『馬鹿野郎! お前は俺の主だろ! 俺はお前を最強にするって決めたんだ! お前がここで負ける姿なんて死んでも見たくねえんだよ!』
魂からの叫びだった。
『それに俺は信じてる。お前なら必ず俺をもう一度呼び覚ましてくれるってな。……だから、行け! ユキナリ!』
目の前には全てを焼き尽くす炎が迫っている。セレスティアが力なく膝をついている。
迷っている時間はない。
ユキナリは奥歯をギリリと噛みしめた。
「……わかりました。信じます。必ず、カイを……!」
『ああ。――頼んだぜ、相棒』
カイが最後にそう言った。その声はとても優しかった。
次の瞬間、ユキナリの胸の魔導書がかつてないほどの輝きを放った。半透明のカイの姿が光の粒子となりユキナリの身体に吸い込まれていく。
ユキナリの全身から空色の魔力が奔流のように溢れ出した。それは彼の魔力だけではない。カイの魂の力がそこに加わっていた。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びと共にユキナリは巨大な火球へと右手を突き出す。
(イメージは、絶対零度! 全ての分子の運動を、停止させる!)
彼の掌から放たれたのは魔法の光ではない。それは空間そのものを凍てつかせるような純粋な「停止」の概念だった。
巨大な火球はユキナリの掌に触れる寸前でぴたりと動きを止めた。
時が止まったかのような光景だった。
クロードも観客も何が起こったのか理解できずにいる。
そして動きを止めた火球はその熱量を完全に失い、ただの魔力の塊となってパラパラと光の粒子に分解され消えていった。
「……馬鹿な」
クロードが呆然とつぶやく。
だがユキナリは止まらない。彼の瞳は今はただ目の前の敵だけを見据えていた。
カイの力を借りた身体は悲鳴を上げていた。だが心は熱い。カイの覚悟を無駄にはできない。
ユキナリはまるで瞬間移動したかのようにクロードの目の前に現れた。
「これで……終わりだッ!」
放たれた拳は目に見えない衝撃波を伴い、クロードを闘技場の壁まで吹き飛ばした。
勝敗は決した。
勝利の歓声が沸き起こる中、ユキナリはその場に崩れ落ち意識を失った。
彼の胸に抱かれた黒い魔導書はその輝きを失い、まるでただの古い本のように静まり返っていた。
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