第8話「絆で掴む勝利の光」
学内選抜トーナメントはついに決勝戦を迎えた。
ユキナリの相手は三年生の首席、アラン・グレイフィールド。彼は「不動の賢者」の異名を持つ土属性魔法のスペシャリストだ。その防御力は鉄壁と謳われ、これまで誰一人として彼の守りを破った者はいない。
決勝の舞台に多くの観客が詰めかけていた。落ちこぼれから一躍ヒーローとなったユキナリと、学園最強の盾と名高いアラン。対照的な二人の対決に学園中の注目が集まっていた。
「ユキナリ、頑張れよ!」
観客席のリオが拳を突き上げて叫ぶ。その隣ではセレスティアが静かに、しかし真剣な眼差しで舞台を見つめていた。
試合開始のゴングが鳴り響く。
「来るがいい、一年生。君の奇妙な魔法が私の『絶対防御』を破れるかな?」
アランは少しも動かない。だが彼が両手を地面につけた瞬間、ゴゴゴゴという地響きと共に彼の周囲に分厚い岩の壁がいくつも出現した。それはまるで難攻不落の要塞のようだった。
『厄介な相手だな。あいつ、自分の周囲の土や岩石の密度を極限まで高めてやがる。生半可な攻撃じゃ傷一つつけられねえぞ』
カイが冷静に分析する。
ユキナリはまず試すように空気の弾丸を放った。しかし弾丸は岩壁に当たった瞬間、キィンという甲高い音を立てて弾かれてしまう。
「無駄だ。私の『ガイア・ウォール』は竜の一撃さえも防ぐ」
アランは自信に満ちた声で言った。
ユキナリは次に風の刃を、水の槍を次々と放つ。だがその全てが分厚い岩壁に阻まれ、アラン本人に届く気配はない。
時間は刻々と過ぎていく。攻撃を続けているユキナリの方が魔力を消耗していた。
観客席がざわつき始める。
「やっぱりあの上級生には敵わないのか……」
「あの壁をどうやって崩すんだ?」
ゼノンは観客席で腕を組みながらにやりと笑っていた。
「フン、所詮は付け焼き刃の力。本物の実力者の前では何もできまい」
ユキナリの額に汗が浮かぶ。
(カイ、どうすれば……。このままじゃ魔力が先に尽きてしまいます)
『落ち着け、ユキナリ。焦りは最大の敵だ。どんなに硬い壁にも必ず弱点はある』
カイの声はどんな時でもユキナリを冷静にさせてくれる。
『いいか、発想を変えるんだ。壁を外から壊すのが無理なら内側から壊せばいい』
(内側から……? でも、どうやって?)
『振動だ。お前が最初に覚えた魔法の応用だ。覚えているか?「分子を激しく振動させ、熱エネルギーを発生させろ」。あの原理を使う』
カイの言葉にユキナリははっとした。
『アランの防御壁は土や岩の粒子が強力に結合してできている。だが、その粒子そのものを外部から強制的に振動させることができれば……』
(結合が崩れて、壁が内側から崩壊する……!)
『その通りだ。だがそれには超精密な魔力コントロールが必要になる。あの広範囲の壁、全ての粒子に均等に干渉しなきゃならん。少しでもズレれば効果はない。……できるか、ユキナリ?』
カイの問いにユキナリは迷わず頷いた。
(できます。カイと一緒なら!)
『……フッ、言ってくれるじゃねえか、俺の主』
カイの楽しげな声が響く。二人の意識が完全に一つになる。
ユキナリは深く息を吸い込み両手を前に突き出した。攻撃ではない。ただアランが作り出した岩の要塞全体に意識を集中させる。
膨大な魔力が目に見えない波となって放たれた。それは衝撃波ではない。ただ空間を伝わる微細な「揺れ」。
アランはユキナリが攻撃を止めたのを訝しんだ。
「どうした? 諦めたのかね?」
しかし次の瞬間、アランは異変に気づいた。
ミシッ、と。
彼の作り出した鉄よりも硬いはずの岩壁から奇妙な音が聞こえたのだ。
「な……?」
音は一つ、また一つと増えていく。やがて壁全体がカタカタと小刻みに震え始めた。
『いいぞ、ユキナリ! もっとだ! 共振周波数を見つけろ! 全ての粒子を同じリズムで揺らすんだ!』
ユキナリはさらに魔力を注ぎ込む。額から滝のような汗が流れ落ち膝ががくがくと震える。全神経を魔力のコントロールだけに集中させていた。
そしてついにその瞬間が訪れた。
パリンッ!
ガラスが割れるような乾いた音が響いたかと思うと、アランの絶対防御がまるで砂の城のように内側からサラサラと崩れ落ちていった。
「ば、馬鹿な……! 私のガイア・ウォールが……!」
呆然とするアランの目の前にユキナリが立っていた。
「これで、終わりです!」
ユキナリは残った最後の魔力を振り絞り一直線にアランへと突進する。その拳には圧縮された空気が渦を巻いていた。
「しまっ……!」
アランは防御する間もなくその見えない衝撃を腹部に受け、大きく吹き飛ばされた。
勝負あり。
審判が勝利を告げる声が割れんばかりの歓声にかき消される。
魔力を使い果たしたユキナリはその場に崩れ落ちた。だがその顔には満面の笑みが浮かんでいた。
駆け寄ってきたリオに肩を貸されながら、ユキナリは観客席にいるセレスティアと目が合った。彼女は驚きと賞賛が入り混じった表情で静かに拍手を送っていた。
(やった……僕たち、やったんだ)
『ああ。よくやったな、ユキナリ』
カイの声はどこか誇らしげだった。
この勝利はユキナリ一人のものではない。カイとの絆があったからこそ掴むことができた光だった。
学内選抜優勝。
それは落ちこぼれの少年が本物の英雄へと変わった瞬間だった。しかし本当の戦いはこれから始まる対抗試合なのだということを二人はまだ知らなかった。
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