第25話 嵐を裂いてゆけ


 そのリプライに、私は心の中で苦笑いを漏らす。迷子亭何処さんが、私を気遣ってくれているのは分かっている。でも、その言葉は今の状況では、上から目線のように見えてしまう。作品を完成させた者とまだ途中の者との間には、明確な一線が引かれているのだ。でも、私がどんな表情をしているかは面と向かっていないから、迷子亭何処さんには分からない。私からの意思表示は、送るリプライが全てだった。


ミミ@mimimimi3333

迷子亭何処@maigoteiizukoさんへの返信

ありがとうございます。

正直余裕は少しずつなくなってきてるんですけど、それでも無理はしすぎずに頑張りたいと思います。


迷子亭何処@maigoteiizuko

ミミ@mimimimi3333さんへの返信

ええ、僕もミミさんの執筆を陰ながら応援しています。

ぜひ素晴らしい作品を描き上げてください。

それと、僕が今回の合同誌に寄稿する作品のテーマにどうして「イザベラ」を選んだか、理由の話はしましたっけ?


 軽くプレッシャーをかけながら、迷子亭何処さんは一つのリプライの中で話題を変えていた。少し胃が痛む心地がしながらも、私は迷子亭何処さんの話が気になってしまう。


ミミ@mimimimi3333

迷子亭何処@maigoteiizukoさんへの返信

いえ、聞いてないと思います。

迷子亭何処さんはどうして「イザベラ」を選ばれたんですか?


迷子亭何処@maigoteiizuko

ミミ@mimimimi3333さんへの返信

はい。僕が初めてトダさんの曲を聴いたのはライブでだったんです。

大学でできた友人に誘われて行った夏フェスでした。


ミミ@mimimimi3333

迷子亭何処@maigoteiizukoさんへの返信

そうなんですか。

迷子亭何処さんはよくライブや夏フェスに行かれてたんですか?


迷子亭何処@maigoteiizuko

ミミ@mimimimi3333さんへの返信

いえ、ライブも夏フェスもそのとき初めて行きました。

高校までの僕は引きこもりとまではいかないんですけど、かなりのインドア派で。学校以外はずっと家にいるような生活を送っていました。

もちろん音楽は好きでずっと聴いていました。

サースデーもライブを見る前から知ってました。


ミミ@mimimimi3333

迷子亭何処@maigoteiizukoさんへの返信

そうだったんですか。

確かに高校生だとなかなかライブには行けないですよね。


迷子亭何処@maigoteiizuko

ミミ@mimimimi3333さんへの返信

はい。加えて僕が住んでいたのは結構な田舎町で。一番近いライブハウスにも車で一時間以上かけないと行けなかったんです。

でも、音楽を聴くことにはあまり不自由はしていませんでした。

ちょうどサブスクが出てきた頃だったので、利用料金を払えばいくらでも好きな音楽を聴くことができましたし。


ミミ@mimimimi3333

迷子亭何処@maigoteiizukoさんへの返信

そうだったんですね。

でも、よかったじゃないですか。何と言うか時代に恵まれた感じがして。


迷子亭何処@maigoteiizuko

ミミ@mimimimi3333さんへの返信

そうですね。僕らよりも前の同じ田舎に暮らしている人たちがどれだけ音楽にお金をかけていたと思うと、僕は恵まれていたと思います。

でも、僕はサブスクで音楽を聴くことにわりと満足していた部分があって。

大学に入学して上京しても、ライブハウスとかに行こうとはあまりならなかったんです。


ミミ@mimimimi3333

迷子亭何処@maigoteiizukoさんへの返信

なるほど。私はライブハウスとかに行ったことはないんですけど、でも何となく敷居というか、ハードルが高そうな感じはありますよね。


迷子亭何処@maigoteiizuko

ミミ@mimimimi3333さんへの返信

ええ。ですから、僕も友人に誘われていなければ、たぶんその夏フェスには行っていなかったと思います。

でも、右も左も分からないなかで友人についていくようにして行った夏フェスで、僕の音楽観は大きく変わりました。


ミミ@mimimimi3333

迷子亭何処@maigoteiizukoさんへの返信

そこでライブをしたのがサースデーだったと。


迷子亭何処@maigoteiizuko

ミミ@mimimimi3333さんへの返信

はい。一日目の最初のステージ、僕にとっては生まれて初めて見たライブでした。

ライブが始まった瞬間の音の圧が、今までに体験したことがないほど凄くて。

スマホで何回も聴いていた曲も、生で聴くと全然違う曲みたいで。

観客の盛り上がりもあり、臨場感を強く感じたことを今でも覚えています。


ミミ@mimimimi3333

迷子亭何処@maigoteiizukoさんへの返信

そうなんですね。私は生まれてから一度もライブというものに行ったことがないので、なんだか羨ましく感じます。


迷子亭何処@maigoteiizuko

ミミ@mimimimi3333さんへの返信

ええ。ミミさんにも色々な事情がおありでしょうから、素直にライブは良いですよとは言えませんけど、でも僕は初めて聴いたサースデーのライブで人生が変わった気がしました。

特にトダさんの歌には凄く迫力があって。

そのときの曲の中から、一番印象的だった「イザベラ」を今回選ばせていただきました。


 文面から迷子亭何処さんが晴れやかな表情をしているのが伝わって、それが私の羨望をより掻き立てた。私がライブに行ったことがないのは単に音楽に対する興味が薄かったからだが、それでもサースデーじゃなくてもライブに通っていれば、私の人生はもっと豊かなものになっていたかもしれない。別に今の人生を不幸だと言うつもりはないけれど、それでも私は音楽が好きな、平行世界の自分を想像する。音楽が側にある生活とは、どんなものだろうか。それをつい最近まで味わってこなかったことが、口惜しく感じられた。


ミミ@mimimimi3333

迷子亭何処@maigoteiizukoさんへの返信

なるほど。そんな理由があったんですね。

お話を聞いて迷子亭何処さんが描いた漫画がより楽しみになってきました。

発行された時には大事に読ませていただきたいと思います。


迷子亭何処@maigoteiizuko

ミミ@mimimimi3333さんへの返信

いえいえ。そんなハードルを上げずに、どうぞ気楽に読んでください。

それと僕もミミさんたちの漫画、楽しみにしています。

執筆作業が大変なのは僕も漫画描いてるから重々承知です。

それでも、僕には頑張ってくださいとしか言えません。

どうかお身体には気をつけて、最後まで走り抜けてくださいね。


 はい。了解しました。そんな分かりきったリプライをわざわざ送る必要性が私には思い浮かばなくて、迷子亭何処さんのリプライにいいね! をつけることで返信とした。迷子亭何処さんも私の意図を汲んでくれたようで、私たちのやり取りは終わる。迷子亭何処さんの元ツイートに三件のいいね! がついていることを確認して、私はスマートフォンを置く。そして、夕食を食べに行くために立ち上がった。また執筆を再開するために、今の私にはエネルギーを補給することが何よりも大切だった。



(続く)

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