描く
結局、あれから半年くらい、美術の先生に頼み込んで毎朝美術室を開けてもらっている。
私の絵が見られたくない信条についても、 朝に描きたい理由も、話したら理解してくれた。
ああ見えてめっちゃ良い人だった。優しい。
本当に申し訳ないけど。
ちなみに、絵を見られたくないのになぜ美術部に所属しているのか。
簡単に言えば、この高校の美術部がかなり緩めの雰囲気だから。
展覧会とか、いつまでに絵を描いてきてみんなで見せ合おうとか、そういう事をしない。
たまに顧問の先生がデッサンを教えてくれる程度。
自分みたいなのにはピッタリの部活。
別にデッサンは見られても構わない。
デッサンは技術を込めるのであって
心を込めてる訳じゃないから。
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「ね、詩と絵ってさ、似てると思わない?」
「、、、は?」
お前は一体何を言い出すんだ。
と口に出しかけてやめた。
「何言ってんの?」
うん。
あんま変わんないかも。
「いやさ、なんか似てるなーって」
いやだから、そのなんかを言葉にしなよ!
お前国語の成績良いだろうが!
言いかけてやめた。
「国語出来るのに言葉にするの下手なんだね」
ダメだ嫌な奴すぎる。
いや、
私からすれば嫌な奴なのはコイツの方なんだけども。
「」
黙っちゃった。しかも嫌な黙り方。
凄い顔に出てる。
あー私嫌な奴やなやつやなやつやなやつ
朝の遭遇は美術部顧問の先生のお陰で避けられた。
しかし結局、教室での遭遇は避けらない。
しかも担任が席替えをしない主義。
出席番号順の方が楽なんだと。ハッ
だから毎日、絵を見せてとせがまれる。
その上、今日はなんか意味わからん質問を飛ばしてきた。
「ふぅー。いやさ、言葉か筆かの媒体の違いであってさ。作品に込めてるものは同じじゃない?って言いたい」
怒りを抑えたのか、デカいため息の後、
わかる?とでも言いたげな顔。ムカつく
「分からん。なんでそんな話がアンタから飛んで来るのかも分からん」
「あれ?私が詩を書いてること、言ってなかったっけ?」
「初耳ですが」
「あっそっか」
「頭おかしくなった?」
(うん初耳。詩を書けるんだすごいね)
逆逆ぅ。
「うーんとね。
詩を書く時にね何かを感じた時何かを見た時その時その瞬間を留めておきたいっていう視点で詩を書くんだけどそれって絵を描く時に似てるんじゃないかと思って」
「なんて?」
「時や瞬間の切り取りって考えると、絵と詩って似てない?って」
「、、、たし、蟹?」
そう、かもしれない。
実際、私も絵を描く時の考えは似たようなもんだけど、その視点だと写真も同じにならない?
いや、手でかいてる物って考えると同じ?
「、、、」
「どう?かな?どう思う?」
「、、、うーん。
似たようなことは考えて描いてるけどさ」
「そうなの!?じゃあやっぱ」
「やっぱ違う物じゃない?
だってさ、絵を描く技術と詩を書く技術って違うじゃん」
「え?」
違うでしょ。
描くと書くで漢字も違うし。
「あーいや、そうなんだけどね。
それってあくまでも媒体の話であって、詩も絵もかく時って同じこと考えてるんじゃないかな、って確かめようという話でね?」
?
コイツは何を言ってるんだ。
ばいたい?
何の話なんだ一体。
考えることが絵と詩は同じ?
なわけないだろ。
イライラしてきた。
「それは絵も詩と同じくらい簡単に描けるかどうか、確かめようとしてるってこと?
詩が書けるアンタでも簡単に絵が描けるぞってこと?」
「いや違うそうじゃなくてね。肝心な部分が同じだよね?って」
「肝心な部分ってなに?詩なんて日本人なら誰でも書けるじゃん。絵は違うよ。技術が無いと良い絵は描けないよ」
「いや詩だって技術が無いと良いものはかけないよ。そういう話をしてるんじゃなくて」
「してるじゃん。だから詩と絵は同じって言ってんでしょ?」
「だからそういう意味でじゃなくて」
「私の絵を描く努力は無駄ってこと?日本人なら誰でも描けるってこと?」
「ちが」
「私の絵は全部無駄だってことかよ!!」
しまった。大きい。
教室の目が全部こちらを向く。
「違うのそうじゃなくでちがぐで」
泣き出してしまった。
私だって泣きたい。
詩と絵が同じだって?
違うに決まってる。
まず努力量が違う。
私は何万枚と絵を描いたんだ。
やっと思い通りに描けるようになったんだ。
お前は何万回も書いたのか?
何万回と詩を作っ
「もういい。ごめんね」
彼女が席を立った。
小走りで教室から出ていく。
「何?喧嘩?」
「なんだかんだ初めてじゃない?よく喋ってたのに」
「〜さんって絵描くんだ」
周りの声がわんわんと耳元で響いている。
彼女が何を言いたかったのか、私には理解できなかった。
多分、私が受け取ったものと彼女が伝えようとしたものは違う
自ら理解する場を放棄してしまった。
「ばかだわたしは」
涙が出てきた。
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