第25話 花飾

「じゃあじゃあ、なんで花売ってたんですか?!それだけ強かったら冒険者だけで食べていくことも出来そうですけど⋯⋯」


「あ、花を売っていたのはあの日だけなんですよ。入学金の振込期日があの日までで、1000G足りなかったんです。森へ行こうにも、妹は体調不良でして、私1人では不安で、すぐに用意できる花を売るしかなくて⋯⋯」


「そんな事情があったんですね⋯⋯ボク何も知らずに、加工すればなんて言っちゃいました。ごめんなさい。」


「あ、謝らないでください!本来、花飾師は花を加工したり、花の良さを引き出したりする仕事なんです。それを目先の利益に囚われて、そのまま売りに出した私が愚かだったんです!」


 いや、そこまで自分を卑下しなくても⋯⋯


「じゃあお互い様ってことにしましょう?ボクはその花飾ってスキルが凄く気になります!花の良さを引き出すってどういうことなんですか?」


「そ、そういうことにしてもらえると助かります。花飾というスキルは、加工品における花の色や香りを調節したり、再現したりするスキルです。」


「花に関する加工品ならなんでもいじれるってことですか?」


「簡単に言うとそんな感じですね。良ければ今からお見せしましょうか?」


「そんなすぐできるものなんですか?」


「はい、スキル自体もすぐに覚えられると思うので、よければこのままうちまで来ませんか?お礼もしたいですし⋯⋯」


「行きますっ!」


 今日はなんだか家にお呼ばれする日らしいね。まさか、メアリーさんの家に行くとは思わなかったけど。


 メアリーさんの家は、北門から続く大通りの中腹にある脇道、そこの2つ目の角を右に曲がった突き当たり。


「うわぁ、めっちゃきれい!」


「ふふ、ありがとうございます。」


 家の入口は門というか、薔薇っぽい植物でできたアーチが出迎えてくれた。


 赤やピンク、白の薔薇のアーチを潜ったら、広々とした庭の左側は区画分けされた綺麗な花々、右側には無風の中、縦横無尽に動き回る無数の植物たちが暗めの金髪の少女に寝技を仕掛けていた⋯⋯


「おねーちゃーん助けてぇぇぇぇぇ」


「はぁ、またやってるのモニカ?研究するのはいいけど、私のお花たちを傷つけないでよね?」


「わかったわかったからぁ、早くこれ解いてよぉぉ〜」


「はいはい。」


 植物×美少女というご褒美エッセンスを目に焼き付けたボクは、一応絡まった植物を解くのを手伝った。


 妹のモニカさんはどうやら植物魔術というのを研究していて、失敗したり、魔力を込めすぎると、こんな感じで植物自体が暴走してしまうらしい。


「いやぁ、お客さんの前でお恥ずかしいところをみせてしまいましたねぇ〜。私の名前はモニカです。アカネさんの話はお姉ちゃんから聞いています。その節は大変お世話になりましたぁ!」


「お役に立てたなら良かったですよ。」


「さっ、立ち話もなんですし、中へお入りください。モニカ、お茶を用意してきて。」


「は〜いっ」


 軽く挨拶をしたら、緑のとんがり屋根に赤いレンガのオシャレなお家に入った。こういう感じのカフェってコーヒーが美味しいんだよねぇ。


「わぁ!家の中まで植物だらけなんですね!」


「もう少し片付けて欲しいのですが、モニカにすぐ使うからダメって言われちゃって。」


 あぁ、便利な物やすぐに使いたいものはなるべく近くに置いておきたいよね⋯⋯その気持ちは凄くわかるかも。

 家を森林化させるほどじゃないけど、実はボクも同じタイプなんだよね。


「粗茶ですが熱いうちにどうぞ。」


「いただきます。」


「モニカ、そんな言葉どこで覚えてきたの⋯⋯」


 確かに、現代日本人でもなかなか使う人いないのにどこで知ったんだろう⋯⋯


 ブルーフルーテッドっぽいティーカップに注がれた、小麦色のお茶は、渋味や苦味が全くない紅茶っぽい香りと華やかさがあった。


「美味しいですね。これはなんのお茶ですか?」


「これは私が花飾スキルで作った茶葉なんです。何種類かストックしてあるうちの一番出来の良いものですね。」


「そうなんです!お姉ちゃんの作るお茶はほんとに美味しいんですよ!花飾スキルで調香した香り、この陶器の見栄えに合わせた色、温度が下がったら味が変わる斬新さ、他の花飾スキル持ちじゃ――」


「も、モニカ!もういいからぁ///」


「へへっ」

「お姉ちゃん照れてるぅ〜」


 おっと、このゲームで姉妹百合が見れると思ってなかったから、思わず顔が崩れちゃったよ。


「もう⋯⋯アカネさん、早速始めましょうっ!」


「はーい。よろしくお願いしますメアリー先生」


 まずは香りについて教えてくれた。

 どうやら、花の香りが出ているのは花弁の香腺っていう小さな穴や細胞の隙間らしい。


 抽出したい香りの花弁を植物油に漬け込んで数日置いておくと、香りの凝縮した浸出油というものができるらしい。


 色に関しては、まず白色の花弁を用意する。

 次に、着色料を水で薄めて茎を何等分かに分け、それぞれ違う色水に付けておくと綺麗なグラデーションの花弁になった。


 そして、作った香りや配色は花飾スキルで再現出来るというロジックらしい。


「アカネさんはとても器用ですね。作業も丁寧だし、1回で全部覚えるし、文句なしの加工技術でしたよ!」


「そうですか?やってるうちに楽しくなっちゃって。これが数日後にどうなるのかとても楽しみです!」


「そう思ってくれると、花飾師としても教え――」


 ドーンッ!

 ゴゴゴゴ


「お姉ちゃーーーーん」


「「⋯⋯⋯」」


 メアリーさん、モニカちゃんを学校へ通わせる前に、教えてあげなきゃいけないことが沢山ありそうだね⋯⋯


〈特殊シナリオ【双花春風に揺れて】をクリアしました〉

 スキル【花飾】を習得しました。


【花飾】

 抽出した香りと、記憶した配色を、花の加工品に再現することができる。


「双花⋯⋯うん、尊い双花だねぇ。」


 リビングテーブルから窓越しに見える、モニカちゃん救出劇を見て、そう呟きたくなってしまった。



 その後、2人と別れたら、ギルドへデイリーシナリオを報告して、ログアウトした。


 この日の夢はメアリーさんとモニカさんの⋯⋯いや、疲れ果てて夢すら見ないくらい深い眠りについたよ!?


 ⋯⋯⋯

 ⋯⋯

 ⋯


「あーかねっ!いやぁ〜一夜で有名人になりましたなぁ。」


 ボクが家から出ると、いつも通り玄関先で待っていた日和が声をかけてきたけど⋯⋯


「なんの話?」


「あれ?運営からPV打診のメッセージきてなかった?」


「一応許可したけど?まさかもうアップロードされたの?!」


 それは流石に仕事がはや過ぎない?!

 ボクが許可する前提で、既にPVを完成させてたとしか思えないんだけど⋯⋯


「そだよん。しかも最初と最後を飾るのが両方茜なんだよね。」


「えぇ?!普通日和とか、凄腕プレイヤーがそのポジションなのでは?!」


「へっ!私なんてどうせ引き立て役がお似合いですよーだ!」


「は、はぁ⋯」


 そんな不貞腐れてもボクのせいじゃないからどうしようもないんだよね。


 後から調べてみると、YtubeのAMO公式チャンネルに、第1回イベントPVというものが投稿されてて、誇張無しでボクの出演シーンが一番長かった。


 そして、SNSのトレンドにも入った注目の第1回イベントはまさかのプレイヤー同士が戦う闘技場イベント?!

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