裂かれる思い

崩れかけた戦場に、雷が走った。


ライゼルの身体が、わずかに歪む。

雷光が輪郭を強め、皮膚の内側から別の何かが滲み出るように膨張していく。


ライゼル「……雑兵共が!覚悟しろ!」


ヴァルターは一瞬だけ目を細め、ラヴィアは小さく息を吐いた。


ヴァルター「おいおい!そんなのもあんのかよ!」


雷が落ちる。

否――ライゼル自身が、雷そのものになったかのように踏み込んだ。


氷と雷がぶつかり、床が砕け、壁が崩れる。

ラヴィアの炎が割って入り、空間そのものが歪む。


二対二になるかのように見えた。

だが、フェリクスが瓦礫の中から、ライゼル向かって前線に戻る。


フェリクス「アッハハ⭐︎キミは本当に強いんだねえ!」


ライゼルに拳を叩き込む。

クロガネは、即座に理解した。

自分が脅威だと思われていない。

このままでは、ライゼルが潰される。


クロガネ(……持たせるしかない)


剣を構え、無理に割って入る。

氷が脚を裂き、炎が鎧を焦がす。


それでも、退かない。


――その間。


ルリは、動けないアカリの元へ駆け寄っていた。


ルリ「アカリちゃん、じっとして!」


抉れた右腕から血が滲み、指先が冷えきっている。

ルリは歯を食いしばり、応急処置を施す。


その時。


飛んできた氷の破片が、二人を襲う。


だが――

鈍い音を立てて、弾かれた。


アカリが、震える身体のまま、淡い光を張っていた。


アカリ(……あ)


しゃがみ込んだ姿勢。

身体の全てが、光の内側に収まっている。


アカリ(全部……入ってる)


氷が弾かれる。

炎の余波も、掠めるだけで止まる。

側にいるルリにも光は及んでいた。


痛みは、ある。

だが、さっきより――耐えられる。


アカリは、左腕で本を抱き直した。


未来は、揺らいで見える。


アカリ(……立たなきゃ)


ルリ「ダメ! まだ無理だよ!」


アカリは、首を振った。


アカリ「……盾なら、またできる」


ルリ「アカリちゃん…?」


アカリの覚悟が映る目

ふらつきながら、立ち上がる。


その頃――


フェリクスがライゼルと近距離で交戦中


フェリクス「あ!思い出した!風神だ!キミは風神より強いんだ!」


ライゼル「黙れ、知らん」


フェリクスは、笑った。


フェリクス「いいねぇ!!」


フェリクスは、すでにライゼルと肉薄していた。

雷と拳がぶつかり合い、その隙を縫うように炎と氷が飛ぶ。


クロガネは飛ばされる、被弾する、それでも前に出る。


足場が崩れる。

ライゼルが少し体勢を崩す

ヴァルターはその隙を逃さない。


氷が放たれる。


クロガネは、考える前に動いた。

ライゼルの前に、身体を投げ出す。


直撃、視界が揺らぐ


クロガネは糸が切れたように倒れた。


フェリクスがライゼルから踵を返し、クロガネに向かう。


フェリクス「おい、邪魔すんなよ…」


低い声でクロガネに拳で止めを刺しに行く。


その前に――


アカリが、立っていた。

ルリに強化魔法をかけてもらい、アカリは間にあった。


フェリクス「……は?」


今度は、完全に。

頭から足先まで、全身が光の内側。

フェリクスの拳が弾かれた。


フェリクス「邪魔すんな!邪魔すんな!邪魔すんな!」


怒りが爆発する。

何度も拳を振るう。

拳圧で地面が軋みをあげる。

殺気と狂気を叩きつけられる。


アカリは、目を閉じた。


――耐える。


その隙に、小さな体のルリがクロガネを引きずり、離脱する。


ラヴィアは焦った表情で


ラヴィア「……フェリクス!」


炎を放つ。

ヴァルターも、遠距離から氷を重ねた。

効かないアカリ、回避するフェリクス、フェリクスは我に帰りライゼルの元へ。


氷と炎がぶつかった白煙の中

アカリの姿が、消えた。


否。


地面が崩れ、穴が空いていた。


地下へ、落ちていく影。


ヴァルター「……マズいな」


即座に氷が展開され、穴は塞がれ、ヴァルターが追跡する。


完全に氷で塞がっている。


ラヴィアが戦況と状況を察する。

アカリとヴァルターが地下に落ちたこと。

雷神を2人で相手するのは難しいことを。


ラヴィア「フェリクス!退くよ!武が悪いわ!」


ラヴィアはそう言い、フェリクスを待たずに去った。



戦場には、再び雷と狂気がぶつかり合う音だけが残った。

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