3 実力主義ここに極まれり
「遅い!」
ドアを通って開口一番に怒声が響き渡る。
今の時間は9時4分。つまり、一キロを約七分で走って来たということだ。しかも階段や回り道もあったので、直線距離の2倍近く時間がかかっている。異能の副次効果で身体能力の上がっている異能者だから成せる事であるにも関わらず、先生は不満げに声を漏らした。
「身体強度がCを超えていれば1分と掛からずに来れる距離だ。Dでも3分あれば着く。次遅れたら欠席扱いになるから注意しておけ。一限目は異能評価と異能練度の測定を行う。出席番号順にルームAに入室しろ。他の生徒は各自訓練室で異能の練習を行うように」
俺の出席番号は32番、つまり結構後のほうなわけだ。
訓練室に入ると、そこは奥行きの広い構造になっており、入口の向かい側には的のような物が立っている。他にも操作系の異能者が訓練する用に、様々な物質が完備された収納庫もあった。この一部屋だけで、物凄い金額がかけられていることが分かる。
まぁ、俺はそんな中で、はしっこの椅子に腰かけてボーっとしているわけだが。
そうして少し経つと、一つ席が前のクラスメイト。つまり、31番の人がルームAから退出するのが窓越しに見えた。
「おっと、もう俺の番か」
急いで訓練室を出て、自動ドアをくぐりルームAに入る。先生は右側の椅子に腰掛けてタブレットをいじっていた。
「出席番号32番、御剣健人。異能は「造兵」… では測定を始める。まずはコレを触れずに武器の形状に変形させられるか?」
そういって示されたのは、机の上に置かれた正方形の金属塊。しかし、少し離れた所から手をかざして異能を発動させようとしても、形が変わる気配は全くなかった。
「変質系の練度 Cランク基準、非接触での異能発動は不可か。では、実際に手に取って異能を発動してみろ」
そう言われて机の上にある鉄塊を手に取る。重さは1kgくらいだろうか? 異能を発動しその形が一瞬にして歪むと、鉄塊は一本の短剣に姿を変えていた。
「見せてみろ」
作った短剣を先生が手に取り、少しの間見つめる。そして、少しすると口を開いた。
「 .... 精度は高い、刃もきちんと研がれているし、実戦でも使用可能なレベルと言えるだろう。異能の訓練は欠かしていないようだが、今年中に非接触での異能発動を目指すように。これらを総合して異能評価を E、異能練度をDとする。では退出してくれ」
しかし、そう言った先生は手にした短剣をゴミ箱に放り込んだ。
....もうちょっと何か配慮とかしてほしいと思いつつ、言葉に従って部屋を退出する。そうしてドアを閉めると、不意に声がかけられた。見ると、そこには神楽木が立っている。
「おう、どうだったよ」
「異能評価は相変わらずの Eで、練度も Dのままだったよ」
「やっぱり練度 C の壁は厚いよなぁ」
「触れずに能力を発動するとかイメージできないのが当たり前だよな」
「そうそう、やっぱりどの系統もそこがキツいんだな。俺も最近はかなり上手く扱えるようになってきたけどさ、非接触での発動は勿論、重量制限だって100g からピクリとも動かないし。まぁ、それがランク E たる所以ってやつ? 一応殺傷力はあるにはあるんだけどさ、所詮は銃の下位互換だし。もし触れなくても射出できたりしたら自由自在に空中で銃弾を操作するとか出来るのかな?」
「それが出来たら C クラスは間違いないな」
「簡単に出来たら苦労しないけど」
「たしかに」
「ちなみに御剣はどうなんだよ、造兵だっけ?よくよく考えると武器を作れるって結構強そうな気がしたんだけど。ほら、銃弾を生成して無限弾幕! みたいな」
「俺みたいなタイプは、想像力で精度が左右されるからな。銃弾とかみたいな複雑なやつは一つ作るのに十秒はかかるし、慣れないと正確に作れないんだ。だから、今は投擲用の短剣のみに絞って精度を上げてるって感じ。実質的には投擲武器を多く作れるだけの異能なんだよ」
「どんな異能も一長一短ってことか」
「でも異能評価 A とかと比べると雲泥の差だよな」
「違いない」
そうして雑談に花を咲かせていると、出席番号が一番後ろのクラスメイトと一緒に先生がルームAから出てきた。そして、すぐに次の指示が飛ばされる。
「次は戦闘技術の測定のため集合場所は第三体育館だ。もう遅れるんじゃないぞ」
今の時刻は9時50分、二限目は10時からだったはず。そして、スマートバンドで第三体育館の位置を調べると、ここからの距離は約5キロ...
「まずい、走るぞ!」
気づいた生徒から一斉に実習棟Aから飛び出していった。
そして10分後。
結果的に全員が間に合ったものの、測定をできる状態の生徒はおらず、全員がグロッキーのような状態で床に座り込んでいる。10分間の全力疾走は、いくら異能者の体でもキツイものがあった。
「情けない、それでも国防軍を志す訓練生なのか? お前らは....」
「ん~、実習棟Aからここまでは少し離れているんですからしょうがないでしょう」
あきれたような声の先生に対し、間延びした女性の声が聞こえる。見ると、白衣のような服を身にまとった、保健室にいるのがよく似合う女性が立っていた。
「私が異能で回復させましょうか?」
「よろしくお願いします、七瀬先生」
「では回復させますね、<
地面に転がったクラスメイト達の体からは光が漏れ、体中に温かいエネルギーが体全体に広がっていく感覚がある。
「これが回復系の異能か... すごく便利だ」
「そうだな」
そうして全員が立ち上がれる状態まで回復すると、先生はもう十分だとばかりに話を始めた。
「今から行われる戦闘技能測定は実戦形式で行われる、全員あそこの武器倉庫でそれぞれ武器を一つ取ってこい」
そう言われたクラスメイト達は、先ほどの疲れが嘘のように意気揚々と武器倉庫に向かって行った。俺も後ろから入っていくと中には三列に分かれて剣、刀、双剣が、まるで傘立てに並ぶ傘のように並んでいる。
「すっご、これ全部が刃の付いた真剣だぞ!」
そういって神楽木は手にした剣をまじまじと見つめている。
「神楽木は剱式なんだな」
「ん? そうだぞ、俺の異能は射出だから片腕は空けとけるように剣を選んだんだ。で、御剣は?」
「俺はこれだな」
そういって刀を一本手に取った。
「刀剱式とはまた物好きだねぇ」
「そうか?」
「だってさ、八剱のうち双剣と剣が三振りで刀は二振りだけ、しかも刀の一本は行方不明なんだろ? たしか残りの一振りはまだ選定が済んでいないらしいけどさ、国守を目指す奴なら大体は双剣か剣を選んでるさ」
「まぁ、たしかにな」
武器庫にいる大体のクラスメイトが刀以外を選んでいるのも、それが理由だろう。刀を選んでいるのは4人ほどと、クラス全体の十分の一しかいなかった。
「全員武器は持ったな、では実習室へ向かう!」
入口の脇の階段から下の階に降りると、そこはSFチックな廊下だ。そのうちの一部屋に先生を先頭として生徒たちが入っていく。部屋の中は二つの部屋にガラス張りの壁で仕切られており、奥の部屋の壁には大きなシャッターが設置されていた。
「戦闘技能測定の概要を説明する。やることはいたって単純、妖魔との戦闘だ」
その言葉に生徒の間に動揺が広がる。今まで国防軍に守られた街の中で暮らしてきた一年生が、見たことすらない妖魔と戦うというのだから当然だろう。
「静かに! 今回の相手は餓鬼、最低ランクの
そう言われて落ち着きを取り戻した一部の生徒が他の生徒に発破をかけると、クラスメイト達全員がやる気をだしたようだ。
「よし、では出席番号1番の生徒から順に戦闘ルームに入室しろ」
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〇 解説コーナー
霊気戦闘術
始まりの8人が編み出した霊気を用いた戦闘術、
異能戦闘術には剱式、刀剱式、双剱式の三つがあり、
それぞれに1~10段の習熟度と剱技と呼ばれる技がある。
妖魔の階位
下のような順番で強い、神妖は過去に二度討滅された記録がある、
しかし、そのどちらもが始まりの八人の手によるもの。
妖魔 神妖 > 王妖 > 将妖 > 大妖 > 成妖 > 妖嬰
異能者 国守 将級 上級 中級 下級 訓練兵
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