第2話 鷹の目

それから、さらに数年後。


飯塚直人いいじまなおとは、今日もダークウェブを巡回していた。特に目的があるわけではない。ひまつぶしと、もし「美味しい話」があれば、小遣い稼ぎ程度。


ネット上での直人のメインアカウント名はEGLEYE


直人は大学を中退し、フリーターとして生計を立てていた。


だが、それは表向きの顔だ。


その裏では、小学生時代から培った鬼才的なインターネット知識を駆使し、企業のネットワークに侵入。

秘密情報や個人情報の売買で日銭を稼いでいる、自称・情報ブローカーだった。


ディスプレイの光が、直人の疲れた顔を青白く照らす。


「今夜はあまり美味しい話はなさそうだな」


いつものようにダークウェブの書き込みをチェックし終えた直人は、すぐにチャットアプリを立ち上げ、TAKE123にメッセージを送った。


EGLEYE: 「最近、収穫がねぇな。もう寝るか」


TAKE123: 「そうだな、最近プラットフォーム側も厳しくなってきたみたいだしな」


TAKE123とは、オンラインゲームで知り合った、唯一無二のパーティー仲間だった。ゲームパーティー自体は解散したが、TAKE123とは妙にリズム感が合い、その後もゲーム以外の付き合いが続いていた。ただ、お互いに顔も本名も知らない、ネット上だけの希薄な繋がりだ。

(この辺が潮時かな?)


直人はそんなことをぼんやり考えながら、明日待っている、面白くもないアルバイトのことを思った。


EGLEYE: 「やばい、リアル仕事が明日7時からだわ、おちる」


TAKE123: 「ああ、また明日な」


直人はメッセージアプリを閉じ、虚無感だけが残る画面を消した。


<つづく>

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