第7話「ランクアップ」

「あーつかれた」

「僕もクタクタ」

「アンタなにもしてないじゃん」


 うぐ。


「そ、それを言っちゃあ~おしまいだよ」

「ふん。……でも、まぁ、エンチャント助かるわ」

「そう言ってもらえると──ちょっと嬉しいかな」


 とはいえ、エンチャントを掛ける以外に何もできなかったのは事実。

 それ以前に昨日掛けたままだから、今日は実質何もしていないのも同然だ。……そりゃ、世の『付与術士』が寄生専門と言われるのもわかる。


「それより、分け前どうしよ」

「わけまえ? あぁ。ゴブリンの──えっと、半分コでいい?」


 え?!

 いいの?! 逆にいいの?!


「いいわよ。別にそれくらい──ぶっちゃけ、私だけの実力なら一匹倒すのも怪しいし……あ、でも、今ならできるかも」


 そういって、力こぶを見せるカティア。


「へへー。昨日と今日でレベル上がって今は3レベルだよ」

「……あ、そういえば僕もレベル上がったかも」


 カティア無双しているとき、なぜかキャシアスにも経験値が入ってくるので、午前中半ばにレベルが上がったのだ。


 何もしてないのに──。


「へー。付与術士って楽でいいわね──。あ、悪い意味じゃないわよ」

「い、いや、うん……わかってるよ」


 うーん。

 心苦しい。


「そんなことより、ほら──換金にいこっ。お金は半分コしても、ゴブリンを狩ったのはアンタってことにしたげる」

「え? いいの?」

「いいわよ。ゴブリン20体でランクアップらしいわよ。──メリッサさん曰く、FからEは簡単なんだって」


 あぁ、そういえばそんな説明も受けたな。

 あの時はぼんやりしてて聞き流してたけど──なるほど、これでキャシアスもEランクということか。


「ありがとう、カティア」

「な……! なによ急に──びっくりするじゃない」

「いや、本当にありがとう」


 初めてお金を稼ぐことができたし、

 ランクまで上がった。……こんなうれしいことはない。


「も、もう。褒めてもこれ以上なにも出さないわよ!」

「はは。感謝してる」


 そうして、こうして──二人はギルドに戻り無事に換金を終えたのであった。





「はい、確かにゴブリン30体の討伐を確認しました──銀貨と銅貨でお支払いできますが──……」


 あ、そうだった。


「全部銅貨でお願いします」

 カティアと分けるからね。

 え~っと150枚だから、75枚がキャシアスの取り分。服を売ったお金の残金が銅貨50枚あるから、借金も返せるな。


「はい、ではこちら銅貨150枚です。お確かめください」

「ありがとうございます──それと、お借りしていた銀貨1枚分のお金返しますね」


 ベンチのほうで暇そうに待っているカティアをチラリと見ながら、

 無事にキャシアスも借金を返済する。……これで痛くない労働は回避できた。やれやれ。


「はい、確かに──頑張りましたね、キャシアスさん」

「いえ、仲間のおかげです」

「仲間──あぁ、カティアちゃんですね。よかったわ。付与術士さんは仲間がいてこそですしね」

「はい!」


 もっとも臨時の仲間で、これからずっとというわけにもいかないだろう。

 彼女には彼女の都合がある。……本音ではずっと一緒にいたいんだけどね。でも、向こうは女の子だし、可愛いし──きっと色々ある。


「あ、それとキャシアスさん、おめでとうございます!」

「へ?」


 チャラリ。

 カウンターには青銅の冒険者認識票。


「無事にクエストを達成されたので、こちらEランクへの昇格となりました」

「わ、わぁ、ありがとうございます!」


 なんと、本当にEランクになれた。

 やった!


「うふふ。それでは引き続きがんばってくださいね!」

「はい!」


 こうして、銅貨とEランクの証を持って意気揚々とカティアの元に戻るのであった。



※ ※ ※



「はいこれ」

 チャリン。

 銅貨75枚。

「はーい、確かにもらったわ」

「う、うん。……でも本当にいいの?」


「え? いいのいいの。あんた信用できそうだし、数えないわよ」

「や。そ、そうじゃなくて、本当に僕が半分も貰ってよかったの?」


「あー。いいわよ! 実際、半分はアンタのおかげだもん! えへへ、これで一緒のランクだね」


 えへへ。そういって青銅色の冒険者認識票を見せるカティア。

 その屈託のない笑みに思わずキャシアスも笑ってしまう。


「はは! 同期ってやつだね」

「ふふ~ん。私のほうが先輩だもんねー」


 はいはい。


「……でも、ありがとう」

「うっ。ど、どういたしまして。──そ、それより、これからどうするの? 本格的に冒険者やる?」


 うーん……。

 それなんだよなー。


「ちょっと迷ってる。食べていくには仕方ないけど、今日、君の戦闘を間近で見てて痛感したよ。……僕なら、多分、秒で死ねる」

「そうね」


 即答かい!

 まぁ、その通りだけど……。


「じゃーどうするの? 薬草採取だって危険よ?」

「そうなんだよねー。知識もないし……。当分は町中の仕事しかないかなーって」


 どぶ掃除とか、探し物とか。

 どれもFランクでも受けられる雑用だ。よほどでなければ死ぬ危険はない。


「それじゃあ、全然ランク上がらないわよ? 私が手伝ってもいいけど、いつもってわけにはねー」


 そりゃそうだ。

 ずっと一緒にいたいのはキャシアスだけの都合だ。


 第一、今日はパーティを組んだけど、本来いきなり見知らぬ者同士が仲間になるにはリスクが高い。なにより、ギルドでも推奨されない。

 あれは、同郷のものや先導者がついて初めて成り立つのだ。


 キャシアスだって、彼女のことは名前と簡単な境遇くらいしか知らないしね。


「まぁ、大丈夫だよ。もともと付与術士なんてランクの上がるジョブじゃないし」


 これは本当。


 現状、ランクを上げるにはパーティに加入するしかないのだが、付与術士を仲間にする冒険者なんていないことはよくわかった。

 低ランクならいざ知らず、中級クラスになれば、もはや寄生しているのは変わらないだろう。


「ふーん? そうなの?? すごくいいジョブだと思うけどなー」


 ブンブンっ!

  ボゥボゥ!!


 相変わらず、燃える剣を素振りするカティア。

 まぁ、そこだけ見れば確かに優秀にも見えるだろう。だけど、攻撃力皆無で、防御力もなし。できるのは、エンチャントだけ──。


「なら、いっそエンチャント屋でもやれば?」

「……エンチャント屋?」


 なにそれ?


「ほら、これ」


 ぶんっ!


「うわ!! あ、あぶないよ!」

 ファイヤーボール程度の威力でも、キャシアスに当たれば一発で昇天してしまう。


「そうじゃなくて、ほら。こうして──冒険者の皆にエンチャントしてあげれば? 魔力無限なんでしょ?」

「え?……あ」


 そ、そうか。

 そう言われてみれば──。


「あんた、前に言ってたじゃん? 魔道具のほうがいいって。でも、あれって高いでしょー?」


 うん。高い。

 ものすっっごく高い。


 基本、ダンジョン産のものだし、取れる量は限られている。おまけにランダムで狙ったものが出るとは限らない。

 彼女が使っているような、下級魔法付きの剣でも、金貨何十枚とする。


「なら、エンチャントを売りにしたらいいんじゃない?」

「エンチャントを……売りにする──」


 な、なんてことだ。

 えらい盲点だった。


「たしかに……僕の魔力は無限」


 実際、彼女の剣は今もボーボー燃えている。低レベルとはいえ、火属性がつきっぱなしだ。

 つまり、実質『火属性付きの剣火の魔剣』と変わらない。


「んね?……えへへ、これずっと使うんだー」

「いや、ずっとはちょっと。ごにょごにょ……」


 別に無限の魔力なので、かけっぱなしでもデメリットはないんだろうけど、これってありなんだろうか?

 いつか切れるんじゃ?


 ……でも、魔力を消費しつくすか、任意で切る以外にはかけたままと聞くし──うーん。


「いいじゃーん。あ、それなら、他の人には一日とか、半日で銅貨1枚とかどーう?」


 銅貨一枚か。

 それくらいならありかな?


「んー。値段はちょっと様子見しつつ、明日ギルドでやってみようかな?」

「うんうん! 私も手伝ったげる!」


 ニッ!


 いつもの元気スマイルに思わず赤面する主人公。


「あ、ありがと……それじゃ、今日は帰ろうか」

「そうねー。あ、昇任したんだから、今日はおごってよー」


 う。


「う、うん……ジュースなら」

「はい決まり―!」


 えへへー。


 嬉しそうに燃えるショートソードをブンブン振り回すカティア。

 ……いいのかなー。あれ。



「……ま、いっか」


 魔力無限だし。

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