遥かなる君へ

ガイコツ

第1話「転世」

1


 世界が、赤く黒く染まっていた。


 空は夜でもないのに黒に覆われ、赤い炎が黒を蝕むかのように燃え上がる。


 まるで、地獄だ。


 この世界を観測している俺は、不思議と冷静にそんなことを思った。

 何故ならば、俺はもう死のうとしているからだ。

 小説なんかでは、キャラクターが死ぬ際に途端に冷静に独白を心の中でしたりあるいは遺言を遺したりするものだが、あれも丸っ切り嘘ではなかったようだ。

 既に手足の感覚は無く、流れる血液の感触すらももう感じることが出来ない。


 ひどく気持ちの良い気分だ。

 眼前には、地獄が広がっているというのに。


 ──────依然として世界は赤く、そして黒い。


 燃える家屋、泣く子供、悲しむ人、消える生命。


 そして。


 それを執行する白く無垢な巨人。


 この地上にある全てを滅ぼさんとするその様は、まるで神話に書かれる天使のように思えた。


「─────ぁ」


 その思いを最期に、意識は途切れた。


 こうして、護代佑人16年の人生は幕を閉じたのだ。

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