転生特典にモブを願った私の話
唯木羊子
第1話
「残念だがそなたは死んでしまった。今なら特典付きで他の世界に転生できるが、いかがする?」
目の前に立っているのは神様でした。転生させてくれるのですね。生前転生物の小説も読んでいましたから、興味がないと言ったら噓になります。ですが残された家族が仏壇やお墓の前で私に語り掛けてくれるであろうと思われるのに、そこに私がいないのは申し訳ない気がします。
「残された家族のアフターサービスは付いておるよ。そなたの代わりに担当者がちゃんと話は聞いてくれるし、何か問題があれば神様に上奏できるようにもしておくから大丈夫だ」
「それなら、私が残るより家族にはメリットがあるかもしれませんね。では、少し心残りはありますが、転生いたします」
「特典は何が良いかな」
「モブで、モブとして生きていけるようにお願いします」
前にも書いたが転生物はそれなりに読んだ。ヒロインになったり悪役令嬢になったり、聖女になったり。それはお話の世界だから良いのであって自分が体験するのは遠慮したい。普通が一番である。
「モブとな。あの世界のヒロインもこっちの世界の聖女も今なら空きがあるのだが」
「いいえそう言うのは断固拒否します」
「そうか・・・。仕方がないな。でも特典がモブというのは、そういう項目が無いのだが」
「普通が良いのです。お願いします」
「では調整できる項目はすべて普通のちょっと上に設定しておこうかの。今からそなたが向かう世界は、昔は魔物もいて魔法も使い放題じゃったが、今は人間と共存できる魔物だけが残り、その分魔法も生活に必要な物だけが残っているような世界じゃ。前世の世界と其処まで大きく変わらないと思うから、楽しんで生きてくれ」
「有難うございます」
「念のため少しはスキルを付けておくよ。では新しい場所へ行ってらっしゃい」
そう言ってふわりと背中を押された。
「自分の人生の主人公は自分だから、モブになるのは難しいと思うがな」と呟いた神様の声は私には届かなかった。
「オギャー、オギャー」
意識が遠くなったと思ったのは一瞬で、けたたましい赤ちゃんの泣き声で意識が覚醒した。目を開けようと思ったが上手く開かず、薄目を開けてみた景色はぼんやりとしていた。
「おめでとうございます。可愛い女の子ですわ」
「早く旦那様にお知らせして」
周りが騒がしい。どうやら女の子が生まれて、この鳴き声はその赤ちゃんの泣き声のようだ。
なんだか身体がべたべたすると思ったが、すぐにスッキリして肌触りのいい布でくるまれ人から人へと手渡された。
あっこれ泣いてるの私だわ。早速赤ちゃんに生まれ変わったようね。
神様がスキルを付けてくれると言ったのは、言語スキルだったようだ。赤ちゃんなのに周りが喋っている言葉が理解できる。赤ちゃんからスタートなら必要ないんじゃねーと思ったが、言葉がなければこうやって色々考えることも出来なかったかもと思い当たる。やっぱり神様グッジョブです。
今私は母親であろう人の胸に抱かれている。大変落ち着きます。そこへ
「でかした!無事生んでくれて、そして生まれて来てくれて有難う」
と半泣きの男性が入室してきた。多分父親だろう。二人の会話を聞きつつも泣きつかれた私はしばしの眠りへと入っていった。
生まれて半年、おっぱいを飲んで、出すものを出してそして眠る。私の生活はそれだけだが、耳とそれから見えるようになった目で情報収集は行っている。
我が家は猫の額ほどの領地を持つモンデス男爵家で、父エリセオと母マリアーノ、そして三歳上の姉ナタリアと私リディアの四人家族である。
父はいつも領地なんかいらないとぼやいている。というのも領地で取れる作物は、領民の食べる分と税金で払う分でなくなってしまう。うちの生活費はは父が隣の領地の伯爵家に働きに行ったお給料で賄っている。
国からは一応領地運営補助として交付金が出ているし、それは丁度うちの税金分と同じか少し少ないくらいなので、そのまま税金として納め、税金にするはずの小麦はいざという時の備蓄として溜めてある。日照りや長雨などが続けばあっという間にうちの収穫高はゼロとなるからだ。
幸いにもこの五年は順調に収穫があり、備蓄も税金で納める分の二年分が蓄えられている。なので我が家で食べる主食は古くなり過ぎないように二年前の小麦である。領民達は今年の小麦を食べているのに領主は古い小麦しか食べられない。
領地がなければ父が働いた分を好きに使えばいいのだが、領地と領民がいるためもしもの為の貯蓄も必要だし、領主の仕事もしなければいけない。領地を持っていない男爵の方がよほど豊かに暮らしているのだ。でも貴族の順位としては領地持ちの方が上になる。なので、貴族のお付き合いでは領地持ちの人より出費が多いのだ。
神様、モブが良いと行った時普通より上になる様にして下さると言ったではありませんか。これが普通より上なら、下の人はどんだけ苦しい生活なのでしょう。スラムとかに住んでる人よりはいい暮らしだとは思います。でも・・・。
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