第3話 キツネの夢とネコの見守り



 ​マンメン・ドラゴンが「大きな約束の巻物は無効だ!」と吼えても、オダヤカネコは動じませんでした。


 ネコは、感情的な言葉で応じず、地道に他の動物たちへ、巻物の正しさと、ドラゴンの主張がルールを無視していることを伝え続けました。


 ​しかし、この緊張状態は、オダヤカネコの最も大切な友人、シッポフリ・キツネの村にも影を落としていました。


 ​ある日、キツネがネコの家にやってきました。

 キツネは小さな目を輝かせ、ネコに希望を語りました。


「ネコさん、私は決めたよ!

 あなたの島や、タカネ・ライオンの森など、ルールを守る賢い仲間だけが入れる『自由な大きな市場の輪』に、私の村も参加したいんだ」


 ​その市場の輪は、ただ品物を売り買いするだけでなく、もし誰かの村が不当な圧力を受けたときに、皆で助け合えるという、友情と信頼の印でもありました。


​「もし私たちがその輪に入れば、ドラゴンに『ワシの村だ!』といくら怒鳴られても、世界中の仲間と強く結ばれていられるでしょう?」と、キツネは言いました。




 ── ​🐉 ドラゴンによる妨害 ──



 ​キツネのこの夢は、すぐにマンメン・ドラゴンの耳にも入りました。


​「なんだと! キツネめ、勝手な真似を!」


 ​なんとマンメン・ドラゴンは、キツネの村よりも先に、その「自由な大きな市場の輪」に、「ワシを入れてくれ!」と、強引に参加を申し込んできたのです。

 そして、キツネの申し込み書が輪に届くと、


「キツネが入るならワシは出ないぞ!

 どちらか一つにしろ!」と、大きな声で脅し始めました。


 ​「大きな市場の輪」に入るには、輪に入っている全ての仲間の承認が必要です。

 ドラゴンは、自分の領地に近い動物たちに、こっそりとささやきかけました。


「もしキツネを入れることに賛成したら、お前のところにはもう、ワシの川の水を分けてやらないぞ!」


 ​ネコは知っていました。


 ドラゴンは、キツネの参加を自分への「嫌がらせ」や「仕返し」だと捉えており、その面子を潰されることを何よりも恐れているのです。




 ──​🐱 大人の対応の選択 ──



 ​オダヤカネコは、深く考えました。


 ​(今、「キツネはわが友だ!入れろ!」と感情的に叫べば、ドラゴンは面子を潰されたと、さらに暴発するかもしれない。それは賢いやり方ではない)


 ​ネコは、キツネの手を取りました。


「キツネさん、あなたの夢は本当に素晴らしい。

 私たちは、あなたの市場への参加を心から支持するよ。

 でも私たちは、これをドラゴンへの仕返しのために使うのではない。」


 ​ネコは静かに続けました。


​「私たちは市場の輪の仲間たちに、あなたがどれほどルールを守り信用できる仲間かを、時間をかけて、丁寧に静かに説明して回るよ。

 あなたは自由な市場のルールを大切にする、なくてはならない仲間なのだと」


 ​そしてネコは付け加えました。


「ドラゴンが入るか、キツネが入るか。

 私たちは、ルールと信用を基準に判断すれば良いのです。

 感情的になったり、脅しを使ったりするのは、ワガママな子どもの行為です。

 私たちは、大人の対応で、あなたの夢を支え続ける。

 そうすれば、いつか必ず、あなたの誠実さが世界中に伝わるはずだよ」


 ​オダヤカネコは、キツネの夢を「面子をかけたケンカの道具」にするのではなく、「自由という共通のルールを広げるための戦略的な一歩」として位置づけました。


 これは、ドラゴンが最も苦手とする、冷静で道理を重んじるやり方でした。


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