秋の空、秋の夜

@yasai258

秋の空(彼視点)

ある九月下旬の朝だった。

 私がふと目を覚ますと、木漏れ日が窓から落ちて私の上を通り過ぎ彼女の頬を照らしていた。

「おはよう」と声を掛けたが、彼女はまだ夢の中のようで返事は返って来なかった。時計の針がちょうど七時十三分を指した頃、静かにベッドから抜け出した。

 リビングへいくと昨夜食べたピザが3ピース残っていた。冷えたチーズは固まりバジルの風味はなくなっていたが、残暑の過ぎた涼しい朝はすっきりと澄んで、不思議と心地が良かった。

 昨日はなんとか奮発し密かに購入しておいたワインをプレゼントし、ささやかなお祝いをしたのだ。

「私の担当した雑誌の特集がすごく良いって言ってもらえて、十一月から念願の編集部へ移動できるなんて夢みたい」顔を赤らめながらグラスを傾ける彼女に、私は自分事のような誇らしさと、やけに強いブドウの酸味を感じた。

 昨夜のささやかな時間を反芻していると、寝室の扉が開く音がした。よろよろと寝ぼけながら起きてきた彼女へ、私はふっと息を吸い決心と言葉を口にした。


「僕たち別れよう」

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