第12話:Club&Pochet

 クリスマス・カレッジには数十のクラブがある。

 二百年の歴史を持つ伝統的なクラブもあれば、去年出来たばかりの新しいクラブもある。


 ざっくばらんに掲示されたクラブ活動勧誘のチラシをブリキの玩具の小鳥たちは次々に貼っては剥がしを繰り返している。

 イベント、集合場所や時間の変更は目まぐるしく変わるので、学生たちは毎日のようにチェックする必要がある。

「こんなにたくさんあるのですか?」

 合唱クラブ。

 オーケストラクラブ。

 演劇クラブ。

 ドレスクラブ。

 ぬいぐるみクラブ。

 絵本クラブ。

 スキークラブ。

 アイススケートクラブ。などなど。

「クラブに入ると将来いい繋がりが出来たりするし、卒業後も集まりが定期的にあるから、入っておいて損はないわ」

「入る条件がいくつかあるけれど、基本どこも歓迎してくれると思うよ」

「勧誘される前に危険なクラブは除外するように薦めて置かないと、うっかりおやつにされるかも」

 ミディールがマロンの質問に答える前に、ジュディとベルは目まぐるしく答えていく。マロンはぽかん、と間抜けに口を開けている。

「たとえばこのミステリークラブなんて、夜な夜な黒ミサをしているって噂だ」

「そうそう。勝手に辞めると呪われてしまうんですって」

 ジュディとベルは面白がってマロンを脅かし、マロンの顔はどんどん青ざめていく。

「ひゃう」

「あ、また小さくなった。ほら」

「声まで小さくなっちゃうのね」

 生まれたての小鹿のように足をぷるぷるとさせて腰を抜かしたマロンを、ミディールはつまんで持ち上げた。

「分かった、いちいち謝るなよ」

 モモンガサイズまで縮んだマロンはまるまると転がり、ミディールの肩に飛び乗った。

「可愛い! 食べちゃいたいくらい。コロポックルってここまで小さくなれるのね。昔飼っていたチビ梟を思い出すわあ」

「ベル……その言い方だと梟を食べたみたいになるから」

「それで思い出した。いいものあげる」

 ベルは鞄から小さい毛糸で編まれたポシェットを取り出した。ドレスクラブは部費のため手作りの小物をバザールに出店している。このポシェットもその一つだろう。

「これなら小さくなっても連れていけるでしょう?」

「悪いな」

 小さくなったマロンを持ち運ぶにはこのサイズはぴったりだ。

「ミディール、あなたからお礼はいらないわ。今度バザールで売り子をしてもらうから、そのつもりでね」

去年も手伝ったというのに。この厚かましさのせいでミディールは腐れ縁となってしまったのだ。

 ポシェットにちんまりと収まったマロンはもしょもしょと囁いた。

「ありがとうございます、だってよ」

 ポシェットの触り心地にうっとりしていたマロンは今にも眠ってしまいそうだ。

「いい触り心地でしょう? もし興味がありそうなら、仮入部からでもいいから。授業が落ち着いたら考えてみて」

「あったかくて寝てしまいそうです」

 柔らかくて丈夫なポシェットに包まれたマロンは、ウトウトし出した。

「特別な綿で作ったもの。ほら、あの教室の」

「おい。本当に寝たぞ」

 ちんまりとまるまったマロンはすうすうと寝息を立てて寝てしまった。

「ちょうどいい。僕らもちょっと休憩しよう。新刊でも読みながらさ」

 ジュディの手にはあの分厚いマテリアルシリーズの新刊があった。

「お前、本当に買ったのか?」

「今回はまだ軽い方さ。それに、今日は特段と冷えるから。きっと屋外の授業は出来ないしね」

「ちょっと、うるさくしたら可愛そうよ」

「まるで赤ん坊だね」

「まったく、こんなので本当にサンタクロースになるつもりなのか?」

 無防備な寝顔を見る限りでは、プレゼントを待ちわびる子どもの方が余程似合っている。


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