ドールウィッグは丁寧に扱いましょう

序章


 霧の古都、ロアステラ。

古い石造りの街並みが立ち並ぶここは、年中霧に包まれることで有名である。

中央街には巨大な時計台があり、その影が落ちる場所には行く筋もの裏通りが存在している。

その中でも一際奇妙な店は、真新しい看板を掲げた店である。

『ドールショップ・ガラテア』とだけ書かれた看板。ショーウィンドウには名前の通り、数体の球体関節人形が飾られている。

 椅子に座った人形。またはスタンドによって立ちあがり、こちらに手を挙げているもの。それらは微笑み、また目を伏せながらひっそりと貴方を見つめている。

 その人形たちに惹かれたのならば、古いドアを開けて入ってみると良いだろう。

ピカピカに磨き上げられた床に、机や棚に飾られたさらにたくさんの美しい人形たち。古めかしい店内の、柔らかな灯りに照らされて、人形の頬は生きているかのように赤く染まって見える。人気のない店内に、何かたくさんのものが息を潜めて待っている───そんな錯覚を齎すだろう。

美しい人形たちに触れてもいいのか、そう迷っているうちに、やがて店の奥から奇妙な音が聞こえてくる。

覗き見ることはお勧めしない。店舗の奥には工房のようなものがあり、絶えず木を削る音が聞こえてくる。もし好奇心に負けて覗き見てしまったら、貴方は驚くだろう。

そこにはこの店の店主───見上げるような長身に、右目を縦に割く傷跡。広がった燃えるような赤毛の、およそ人形とは無縁そうな女性が、熱心に人形の元となる木を削り出しているのだ。

 その光景を見終わって振り返ったところで───金の髪を持った生きた人形のような少女が声をかけられて、貴方は悲鳴を上げる。


「ようこそ。ドールショップ・ガラテアにいらっしゃいませ。貴方にぴったりの人形が見つかりますように」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る