それでも私はぽっちゃりになりたい!!
白鷺雨月
第1話 ぽっちゃりになりたい
私の名前は
名は体を表すと言うけど私は名前の通り細身のスタイルをしている。身長は百七十五センチメートルで体重は五十七キログラムだ。
こう数字でみるとやっぱり私はかなり痩せている。
クラスメイトにはスレンダーでいいねと言われるが、私は別に嬉しくともなんともない。
私はぽっちゃりになりたいのだ。
何故なら、私が好意を寄せる幼なじみの宅間賢一君の好きなタイプがぽっちゃりさんだからだ。
真逆のスタイルをしている私は今日も今日とて、ぽっちゃりになる努力をしている。
「ホソイヨ、また食べてるね」
友人でクラスメイトの田沼美穂がメロンパンをかじる私に話しかけてきた。
時刻は二時限目と三時限目の間の休憩時間である。
まったく美穂ったらいつも私のことをホソイヨなんて呼ぶ。私の名前は細井衣代だ。「い」一文字ぐらい省略せずに呼んでほしい。
私はメロンパンをミルクティーで流し込む。
コンビニのメロンパンのクオリティに感心しつつ、私は美穂の丸い顔を見る。
「何よ美穂」
私は次のチョコクロワッサンのビニール袋を開ける。甘い匂いが私の鼻腔をくすぐる。
甘い物を連続で食べるのは胸焼けするが、ぽっちゃりになるためには仕方がない。
「あんたそんなにたくさん食べてるのに全然太らないね。本当に羨ましい」
美穂はスマートフォンをいじりながら、溜息をつく。
羨ましいのは美穂の方だ。
美穂は背が低くて、どちらかと言えば肉付きがいい。制服のブレザーを着ていてもその巨乳っぷりはよく分かる。
爆ぜろ巨乳め!!
ひるがえって私はというと良く言えばスレンダー、悪く言えばまな板胸の痩せっぽちだ。
どんなに食べても太らないという他人から見たらとんでもなく羨ましいであろう体質だ。
しかし、こんな体質なんかに生まれたくはなかった。
ぽっちゃりむっちりになって賢一君を振り向かせたい。
無駄な努力かもしれない。
だけど私はぽっちゃりになるためにこうして高カロリーな菓子パンなんかを暇をみつけては食べている。
「いいのよ、私はぽっちゃりになりたいんだから」
私の言葉に美穂はあからさまなジト目を向ける。
「あんたね、それ他の女子に言わないほうがいいわよ。反感買いまくり之助なんだから」
美穂はたまにおかしな言い回しをする。
お祖母ちゃんっ子だからかも知れない。
美穂の家には両親がいない、
両親がいないけど美穂のお祖母ちゃんはデザイナーをしていて、けっこう裕福なのである。
「大丈夫だよ。私、美穂しか友だちいないし」
チョコクロワッサンもミルクティーで流し込み、私は休憩時間内にノルマである菓子パン二個を食べきった。
最初のメロンパンでお腹いっぱいだったけど根性でチョコクロワッサンも平らげた。
これで少しは体重が増えたかも知れない。
夢の六十キロ台まであともう少しだ。
「それ寂しすぎるわ。あんたには一応幼なじみがいるじゃない」
美穂は相変わらずスマートフォンをいじっている。
私との会話もスマートフォンをいじるのも美穂にとっては同価値の時間潰しなのだろう。
「賢一君とは友だちになりたくないの」
賢一君は私の家の向かいに住んでいる幼なじみだ。
私が偏差値的に無理して友の浦高校に通うのはその幼なじみである賢一君が通うからである。
私は賢一君とは友だちではなく、彼女になりたいのだ。
恋愛もののライトノベルなんかでは幼なじみは負けヒロインなんて言われる。私はどうにかして、その常識を覆したい。
美穂はスマートフォンをブレザーの胸ポケットにしまうと窓際の席に座る賢一君をちらりと見る。
私もばれないように賢一君を見た。
賢一君は一人でライトノベルを読んでいた。
「宅間君ねえ。まあ中の上かな。もうちょい清潔感があればいけるかもね」
美穂はあんた何様発言をする。
私から見ると賢一君はむちゃくちゃかっこいいイケメンだ。
とくにあの本を読んでいる時の眼鏡の奥の目がやばいぐらいめろい。
「そんならさ、とっとと告っちゃいなよ」
小声で美穂は言い、いたずらめいた笑顔を浮かべる。
それができたら何の問題もない。
今、告白しても私のような痩せっぽちなんか相手にしてもらえない。
賢一君は正真正銘のぽっちゃり好きだ。
ちょっと前に賢一君の部屋に入れてもらった時に見たものに私は衝撃を受けた。ぽっちゃりアニメキャラのオールスターで部屋は埋め尽くされていた。
胸の大きなエルフのフィギュアに爆乳魔女キャラのポスター、もうそれは数え切れないほどのぽっちゃりであふれていた。
正直、私はめまいがした。
しばらく見ないうちに賢一君のぽっちゃり好きに磨きがかかり、進化していた。
そして私は賢一君から「大きな聖女の大冒険」というライトノベルを読むように勧められた。
私は文字をよむのが苦手だけど、賢一君と話を合わせるために「大きな聖女の大冒険」を読んでいる。
そんなぽっちゃり女子を目指す私に大事件が起こった。
中間試験をどうにかのりきった六月の初めである。
我がクラスに転校生がやってきた。
担任の女教師がたんたんと事務的に彼女を紹介する。
女教師は黒板にその転校生の名前を書く。
その女子生徒の名前は
ブレザーのボタンが今すぐにでもはち切れそうなほどの爆乳をした絵に描いたようなぽっちゃり女子だった。
「京都から転校してきた豊岡京華です。よろしくお願いします」
おっとりとした声で豊岡京華は言う。
「あーあの時の!!」
豊岡京華は教壇から降りて、ポヨンポヨンと爆乳を揺らしながら賢一君のところに駆け寄る。
「あの時の!!」
賢一君は豊岡京華と同じことを言い、席から立ち上がる。
えっ何、どうなってるの。
もしかして私のしらないところでラブコメがはじまってませんか。
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