新大陸
《大陸制覇:達成》
そのログが全世界に表示され、
B&E の世界は静かに数分の沈黙を迎えた。
NPC も、プレイヤーも、
戦い続きで変わり果てた都市も、
すべての音が一瞬止まったようだった。
そして――
《イベント “大陸戦争” をクリアしました》
《クリアボーナス:全プレイヤーに支給》
《プレイヤーランキング更新中》
淡々としたゲームシステムのメッセージが続く。
クオリアは玉座の間で立ち尽くしていた。
世界の支配者――
そう呼べる地位に到達したはずなのに、
勝利の余韻よりも静かな疲労が胸に沈んでいる。
勝っても、心が満たされるとは限らない。
もう一度深く息を吐き、
ギルドメンバーたちを振り返る。
笑顔はある――だが皆、どこか張り詰めている。
大きすぎる戦争のあと、人はすぐ走り出せない。
玉座の間の奥のシステムゲートが、
ゆっくりと閉じようとしたその瞬間――
《新規通信ログを検出》
画面の隅に、見慣れないウィンドウが浮かぶ。
古びた紙のような質感のそれは
どの国とも違う紋章を刻んでいた。
ウィンドウが自動で開き、
静かな声が響いた。
「……大陸を支配した者へ」
止まった空気が再び動き出す。
「我らは長き眠りより目覚めた。
遠き海の向こうより迎えをよこす。
望むなら来い。
望まぬなら――来なくとも良い」
挑発でも脅しでもない。
ただ “扉を開いた” と告げる声。
さらにメッセージが続く。
「この世界には、もう一つの大陸がある。
名は――アルターラ」
聞いたこともない地名。
公式情報にも存在しない。
玉座の間がざわめく。
「……追加マップ?」
「隠しコンテンツ?」
「DLCかイベントか?」
「そもそも昔からあったのか……?」
ログが続く。
《新大陸 “アルターラ” 転移ゲート開放条件を満たしました》
《参加権利:大陸支配者とそのギルドに付与》
転移ゲートが玉座の間にゆっくり浮かび上がる。
深海のような暗い青と、
炎のような赤が渦巻く不気味な空間。
すぐにでも入れる。
だが、ひとつだけ決定的に違う。
《警告:アルターラでは “死亡時の蘇生” が行えません》
《敗北=キャラクター完全ロスト》
ギルド全体が静まり返った。
誰もふざけない。
誰も軽口を叩かない。
“死ぬ” リスクが現実を帯びる。
その中で、クオリアは少しだけ笑った。
「……やっと、終わりじゃないってわかった」
疲労よりも、
もう一度前に進む“理由”が胸に満ちていく。
大陸戦争では、
力と価値観と存在理由を問われて勝ち抜いた。
今度は――
“生き残れるかどうか” の世界。
一歩ゲートに近づくと、
三人がすぐ後ろに寄り添う。
銀髪の少女が袖をつまむ。
「にぃにが行くなら妾も行くのじゃ」
黒衣の女はただ短く告げる。
「兄さんを一人で行かせる選択肢はない」
ストーカーは笑顔だけを浮かべる。
「死ねない世界ですか……最高ですね♡
先輩と一緒に生き残れたら、それだけで勝ちです♡」
ゲートの奥から、
海の咆哮のような音が聞こえた。
まだ誰も知らない大陸。
最初の一歩が、世界を変える。
クオリアは、ほんの少しだけ背筋を伸ばし、
静かに宣言した。
「行く。
次の大陸も――全部踏破する」
そして一歩踏み出す。
転移ゲートが光を放ち、
視界が飲み込まれていく。
次に待つ大地は、希望か絶望か。
仲間は最後まで生き残れるのか。
世界は再び戦乱に飲まれるのか。
だが、迷いはなかった。
歩みを止める理由が――どこにもない。
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