最終国家
《大陸制覇率:82%》
残る国家は一つ。
世界を象徴する国。
支配の象徴、価値観の中心、
すべての国家が恐れる 中央神聖連盟。
国土は小さく、兵力も少ない。
だが全世界の価値観と “正しさ” を統制している。
勝てば、“世界の形” そのものが変わる。
負ければ、クオリアは “間違いの象徴” として世界から排斥される。
転送陣が展開され、
視界が白い光に満ちた。
次の瞬間、
白い大聖都が眼前に広がった。
雪でも砂でもない。
白すぎる街。
色彩がほとんど存在しない。
壁も道も家も人も、光を浴びて淡く輝く。
静寂ではない。
“無音”が響いていた。
音があるはずなのに、耳に届かない。
風が吹いているはずなのに、頬に触れない。
現実感を削ぎ落とした世界。
最奥の階段から、
純白のローブをまとった人物が歩み寄る。
性別も年齢も推測できない。
ただ、圧倒的な “正しさの象徴” としての存在。
そして静かに告げた。
「――ようやく来たのですね。
あなたは世界を支配しようとしている」
クオリアは答えずに見つめた。
相手の声には怒りも恐怖も憎しみもない。
ただ問い続けるような響き。
「戦争を終わらせたいのですか?
それとも、勝ちたいのですか?」
クオリアは短く返す。
「勝つために戦っている。
それ以外の理由は今は考えない」
人物は微笑んだ。
静かで、悲しみのような慈愛のような、不思議な笑み。
「あなたの“勝つ”は、誰のためですか?
世界のため?
仲間のため?
家族のため?
それとも――自分のため?」
返事はしない。
クオリアの沈黙が答えになっていた。
「ならば証明しなさい。
世界が、あなたが勝つべき “正解” であるということを」
人物の背後から、
光の粒子が降り注ぐ。
街全体が揺らぎ、
祈りの光が街中から立ち昇る。
都市そのものが “意志” を持っている。
神殿、鐘楼、街路、住民――
すべてが祈りの光を放つ。
次の瞬間、
クオリアのステータスウィンドウが強制的に展開された。
《正当性チェックを開始します》
《あなたの存在意義を評価します》
たった一撃の戦いではない。
力比べでもない。
“存在理由の戦争”
勝者は “正しい者”。
敗者は “不要な者”。
光の粒子がクオリアに触れようとした瞬間、
後方から手が伸びた。
腕を掴んだのは銀髪の少女。
その目には怯えも迷いもない。
「にぃには“妾たちを幸せにしてくれている”のじゃ。
正しいかどうかなんて関係ないのじゃ。
妾はにぃにがいれば幸せなのじゃ」
黒衣の女も横に立つ。
「兄さんは皆を生かしてきた。
それだけで存在理由は十分」
ストーカーも一歩前に出る。
「先輩は私の世界です♡
正しさなんて知らないですけど、
先輩がいない世界は“間違ってます♡”」
光が揺らいだ。
祈りを構成していた価値観の粒子が、
“揺れている”。
純白の人物は苦笑するように目を伏せた。
「なるほど……
あなたは “正義の象徴” ではなく
“選ばれた幸せの中心” ですか」
わずかに姿勢を正し、静かに言う。
「そのあり方を否定する権利は、
誰にもないのですね」
光の粒子がすっと収束し、
ステータスウィンドウが変化する。
《中央神聖連盟はオリジン・ユナイトの支配下に入ります》
《大陸制覇率:100%》
世界が音を取り戻す。
祈りも無音も、雪も戦も、
すべてが一つのログへ変わる。
《オリジン・ユナイトが大陸の支配者となりました》
世界が――終わり、始まった。
クオリアは拳を開きながら、ゆっくり息を吐いた。
「……終わったな」
だがその声音は、安堵でも、勝利でもなく、
ほんのわずかな “虚しさ” を含んでいた。
戦争が終わっても、
クオリアの中の戦いはまだ続いていた。
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