第2章-6.5 ユグドラ・アクアアリスの9層
昇華の門へ向かう前日。
広場の古い木の掲示板に、色褪せた羊皮紙の地図が貼られていた。
村の子供たちが描いたような可愛いイラストと、誰かの丁寧な字で書かれた説明。
俺とゴレちゃんは肩を並べて、それを見つめていた。──ユグドラ・アクアアリス 9層の浮遊島群──
第1層(最下層) 雲海の門・交易島「ミストハーヴェン」
雲海の上に最初に着く島。地上からの荷物が集まる巨大市場。
アクア・ドラグーンの始発駅あり。常に水しぶきと商人で騒がしい。
第2層 農園島「ヴェルデ・テラス」
世界樹の枝に沿って広がる段々畑。滝の水で育つ虹色野菜の産地。
地上からの葉や水もここで加工される。
第3層 職人島「クリスタル・フォージ」
魔力結晶を加工する工房街。アクアコインもここで打たれる。
昼も夜も炉の火が虹色に燃えている。
第4層 学園島「アカデミア」
巨大な図書館と研究塔。例の“便利発明”を生み出す若者たちの本拠地。
教授たちの新農法や葉圧縮機がここから降ってくる。
第5層 居住島「セレスティア下層」
一般市民が暮らす住宅街。虹窓のついた家々が並び、滝が庭を流れる。
第6層 王都「セレスティア中層」
本当の王都エリア。白亜の宮殿と、貴族の邸宅が立ち並ぶ。
アクア・ドラグーンのループ駅あり。
第7層 要塞「ヴァルハラ」
魔法騎士団の本拠地。ドラゴン舎と訓練場。
ゴレちゃんたちの故郷。ゴレちゃんが指差して「ここ~!」と嬉しそう。
第8層 聖域「エリシオン」
世界樹の頂に最も近い、静寂の島。
巨大な虹の結晶が浮かび、祈りを捧げる者だけが入れる。
第9層(最上層) 「ユグドラシル・コア」直下
世界樹の枝が絡み合う天空庭園。
誰も立ち入りを許されない、伝説の領域。
ここでだけ、世界樹と直接会話ができると言われている。地図の端に、小さな落書きでこう書かれていた。
「雲海の下から見ると、全部が一つの巨大な虹の階段に見えるよ」
俺は息を呑んだ。
9つの島が、世界樹の周りをゆっくり螺旋状に回りながら浮いている。
滝は下から上へ、列車は下から上へ、虹は常にどこかで生まれている。ゴレちゃんが俺の袖を引っ張った。
「たろちゃん、明日からここを全部登るんだよ~!
ゴレちゃんの家も、騎士さんたちも、待ってるよ~!」
俺は地図を指でなぞった。
最下層から最上層まで。
0アクアの俺が、これから登る虹の階段。
「……よし、行こう」
その夜、村人たちに見送られる準備が始まった。
明日は、いよいよ昇華の門。
天空人たちの住む世界への、最初の扉が開く。
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