『この傷だらけの世界に、愛という名の奇跡を。』 ——原初(オリジン)の天才少女の記——
凛冬の夜警
序章 「愛」の始まり
第1話 月の十六(いざよい)は丸く
土壁の隙間からは
家の裏手を小川が流れ、砕け散った銀のような光の粒が、苔むした窓辺へと踊り上がる。虫の音がふと止み、一羽の
その「月光」を飲み干せば、暖かさが寒気を追い払い、ただひたすらに心地よい……。
「
祖父はほほと笑った。
「おっと、わしの配慮が足りなんだ。
そう言うと、彼は
地面に座る祖父と、竹椅子に座る
焼き上がったばかりの月餅が芳しい香りを放ち、
「月餅……って、なに?」
「はは、こりゃいかん、わしの物忘れも困ったもんじゃ。
そう言いながら、祖父は空の満月を指差した。
「ごらん、あの月は丸いかい?」
「まるい」
「丸いじゃろう。じゃあ、この
「まるい」
「月にお
祖父は
「
「はは、団欒か……そうじゃな。じじには、
彼はそれ以上何も言わず、口元に笑みを浮かべたまま、空に浮かぶ真ん丸い月を見上げた。
月餅は程よく冷め、手で持てるようになっていた。
月餅の縁にある十二の
祖父はもう何も話さない。後ろに仰け反ったその白髪の先が月光に浸り、まるで薄い
一陣の寒風が頬を打つ。
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