第36話 戦端

 飛行の最中、時折進行方向にごく小さな魔力障壁が発生し、砕けるのは、肉眼で確認できないレベルの微細なアースライトと衝突した痕跡であろう。これもゴーレムの脳にセットされた受動魔術の一つだ。 


 高度八千メートル程度を維持しながら、スーパークルーズで飛ぶ。

 空中艦で三日かかった行程だったが、夜明けにはもう見慣れた地形が見えてくる。

 左、すなわち南に外洋。


 正面に海峡。


 そしてその海峡の向こうにはシルヴァリウス。

「ちくしょう、なんだよあれ」

 一千年の歴史を誇る美しい王都は、黒煙を上げて炎上していた。


 上空にはシルヴァリウスに残されていた軍の空中艦が数隻。

 今しもその中の一隻が、見ている前で爆発の炎を吹き上げながら斜めになって墜落していく。


 地表には王都の建造物をがんがん破壊しながら進む巨人騎士の姿があった。

 灰白色の地に血のような赤の意匠。

 菱形の大盾。

 背に負っているのは、背後からの奇襲対策を意図した防刃繊維入りの大きなマント。

 間違いなくベルナルドの新型インフラクターだ。

 その数実に十。


 対して、いったいどこから持ち出してきたのか、旧型のインフラクタ―が果敢に数機立ち向かっている。

 しかし単純な動きしかできない旧型はもう新型の敵ではなかった。

 片手直剣を携えた灰白の巨人が半身でざっと鋭く踏み込み、上半身を回転させながら旧型の手にした不格好な鉄球尽き棍棒を前腕ごと斬り飛ばす。

 ひるんだように後退る旧型は、たちまち装甲を叩き割られ、首を飛ばされてどうっとくずおれる。


 上空に遊弋する残存の空中艦たちが、示し合わせたように増速しながら地表に降下する。

 大砲の照準域にインフラクターたちが入るなり砲撃開始。


 舷側から黒煙が次々と噴いて、砲弾がインフラクターに着弾する。


 しかし新型に施された魔力障壁は過去の艦船類に用意されていたものよりも強力であると見えて、ほんのわずかな傷をつけることも不可能だった。彼らは衝撃一つ受けた様子も無く手にした片手剣をぶん回す。

 ぎりぎりまで接近してきていた空中艦の一つが斬撃を食らう。


 金属同士が激突する甲高い響きと共に、被甲された船体がざっくり裂ける。

 船腹から炎が吹き上がり、その空中艦は艦首からシルヴァリウスの市街地に墜落していった。


 他の場所でも大同小異の攻防が発生し、空中艦たちは次から次に落とされていく。

 完全に一方的な虐殺だ。

 しかしそれでも空中艦や旧型インフラクターが逃げずに踏みとどまっているのは理由があるようだった。

反乱の新型インフラクターたちが目指しているとおぼしいのは、最も防備が固い王都中央部。

 そこには係留された状態のままの王族専用艦ザリクレオンの姿があったのだ。


「なにやってんだ、早く逃げろよ」

 おそらく王宮内で何かトラブルが生じているのだろう。

 コーネリアスも逃げ遅れているのだろうか。だとしたらこのままでは彼を召喚の儀の犠牲にさせないための今までの努力が、元も子もなくなってしまう。


「よし、やってやる」

 FJ25はシルヴァリウス上空を通過。

 都市外に設けられた三重の城壁を通過した辺りで旋回に入る。

 引き返してくる時には速度をギリギリまで落として低空を進む。

 機体下部のウェポンベイを解放。

 機に備わったゴーレムの眼球とレイジ自身の視覚が連動し、一機のインフラクターを捕らえる。

 付与魔法『必中』発動。

 視界の中でインフラクターの像に赤い光点が重なる。

 さながらロックオンだ。

「フォックス3」

 発声と同時にミサイル発射。


 ベイからランチャーで押し出された誘導弾が白煙を曳きながら飛翔する。

 弾着の寸前、インフラクタ―の前に防御の魔力障壁が自動発生する。

 しかしミサイルはその魔方陣を軽々砕いて本体に着弾した。

 弾頭に付与された使い捨ての超ハイレベル 『火炎球』および『爆発』が同時発動。

 大気を震わす衝撃。

 インフラクターの装甲がひしゃげ、飛散し、中身が膨張しながら爆散する。

 爆発の閃光と黒煙がはれた後には、インフラクターの下半身だけが佇立していた。

 しかしその下半身もがくっと膝が折れ、民家数棟を押しつぶしながら地響きを伴ってくずおれる。

「すげえ」

 ミサイルを実戦で使うのは当然初めての経験だったが、ここまで圧倒的な威力とは思わなかった。

「まあ、ミサイル自体はベルナルドのお手製ミサイルだけど」

 謎の敵性的存在が自分たちを狙っていると知ったインフラクターたちは、足を止め、周囲を警戒し始める。


 レイジは補足される前に急上昇し、彼らの視界から姿を消す。

 高度一万辺りで機首を思い切り上げ、背面宙返りで急降下に入る。

 形としては完全に真っ逆さまに落下する形だ。

 地表がみるみる接近してくる。

 視界に入ってくる適当なインフラクターを狙う。

 まさかこんな形で攻撃されるとは思ってもいない彼らの頭上は完全に無防備だ。


 レイジは唇をぺろっと舐めて、『必中』発動。

 赤い光点が目標に重なる。

「フォックス3」

 ミサイル発射。

 続けて発射。

 更に発射。

 飛翔音に気付いたのか、そいつらがさっと上を向く。

直後に着弾。

 首から胴体が完全に破壊され、ばらばらになった四肢が飛散する。

 レイジは地面に接触する寸前に機体を真横にするほどのバンク角をつけながら水平飛行に移行する。


 王宮に目を移す。が、ザリクレオンはまだ発進していない。


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