第6話 交わせない約束
ミラノに来てから1年が経った。
ミラノでの生活もだいぶ慣れてきただろうか。
星夜は青年海外協力隊として遠くモンゴルへ赴任している。
赴任する時に彼は業務に集中したいという理由で携帯電話を解約していた。
だからこの1年、星夜とは連絡は取れなかった。
姫花は”カササギ”のネックレスを見つめていた。
(星夜くんは元気にしているかな?)
1年前、恋煩いで仕事が手につかなかった頃が懐かしい。
星夜と離れて最初は辛かったけれど、辛い時、”カササギ”のネックレスを見ては星夜のことを考えていた。
(星夜くんと約束したんだ。Orihimeを良くしていくって。)
そして明後日7月7日に姫花は1年ぶりに一時日本へ帰国することになっていた。
***
姫花が帰国した7月7日。その日は雨だった。
姫花は1年ぶりにOrihime本社に来ていた。
ミラノでの1年間はとても勉強になった。
やはりファッションの街だけあって、ブランド展開など今後Orihimeでも活かしていけそうなことを多く学ぶことができた。
これも星夜がミラノ行きを後押ししてくれたからだ。
姫花は社長室の前に立っていた。
ドアをノックして中に入る。
「ただいま戻りました。」
「おかえり、織田主任。ミラノでの1年間はどうだった?」
「とても勉強になりました。Orihimeもまだまだ成長できると思います。」
「そうか。それは良かった。ところで姫花…。星夜くんとはどうなんだ?」
「どうしたんですか、社長?今は仕事ですよね。私情を持ち込まないでいただけますか?」
姫花は笑みさえ浮かべて応じた。
天人:「いや、二人には悪いことをしてしまったかなって思ってね。」
姫花:「やっぱり、ミラノ行きは私と星夜くんを離すためにやったんでしょ?」
天人:「参ったな。確かにそれもあるが、ミラノで姫花に勉強させたかったことも本心だ。」
天人:「仕事一本の姫花がまさかあそこまで星夜くんのことを気に入るとは、父親としても完全に想定外だったんだよ。」
姫花:「そうなんだ。でもミラノに行けて良かったよ。」
姫花:「星夜はモンゴルで元気にしてるかな?連絡も取れないし、私のことなんて忘れてるかもね?」
天人:「姫花…お前、変わったな。」
姫花:「変わってないよ。たぶん、星夜くんに会った時が特別だっただけ。」
天人:「そうか。星夜くんの任期はあと1年か。まさか海外青年協力隊に行くとは思わなかったよ。」
姫花:「そうだね。私は今でもまだ理解できないよ。でも星夜くんがやりたいことなら応援したい。」
姫花:「それに、やっぱり私はOrihimeの魅力をもっと多くの人に届けたい。」
天人の携帯電話が鳴り響いた。
天人:「噂をすれば、ほら、彦野から電話だ。」
天人:「もしもし、今なちょうど姫花がミラノから戻ってきて一緒にいるところだ。」
天人:「珍しいな。どうしたんだよ。そんなに暗いトーンで…えっ…嘘だろ。」
彦野と電話する天人の声色が変わる。
姫花は天人の様子から何か嫌な予感がした。
静かに電話を終えた天人が姫花を見つめながら言った。
天人:「星夜くんが現地で重病で倒れたらしい…。」
姫花:「………。」
姫花は言葉を失った。
静かになった室内には、外で降り続いてる雨の激しい音が鳴り響いていた。
姫花:「お父さん!お願い、私、星夜くんのところに行きたい!」
天人:「姫花…。落ち着け。彼は今、隣国の地で治療を受けているそうだ。」
天人:「それにお前が行ったところで何にも変わらないよ。」
姫花の目には涙が流れていた。
姫花:「わかった…お父さん。いや、社長。私ね、やりたいことがあるの。」
天人は泣きながらも訴えてくる娘の力強さを感じた。
姫花:「Orihimeで途上国の子供への支援プロジェクトをやりたいの。」
天人は姫花の要望に戸惑った。
天人:「それは星夜くんのためかい?」
姫花はしばらく間を置いて考えを整理する。
姫花:「それもないとは言えないよ…。でも、Orihimeは若い女性向けのファッションが多いでしょう?」
姫花:「Orihimeを好きな若い人たちにもっと世界の実情を知ってもらうことは良い事だと思うの。」
姫花:「それにその活動をより多くの人たちにも知ってもらうことで、若い女性以外の人たちにもOrihimeを知ってもらえる。」
天人は姫花がそこまでOriihimeのことを考えているとは思いもよらなかった。
天人:「そうか。織田主任。君はミラノでの生活で想像以上に成長したな。」
天人:「あと1年のミラノでの活動も大変だと思うが、その支援プロジェクトの企画を君に任せるよ。」
天人:「何か必要があったら鳥谷くんや橋本くんを頼りなさい。二人はきっと君に協力してくれるよ。」
姫花:「はい!ありがとうございます!」
(あと1年。Orihimeをより多くの人に知ってもらう。星夜くんとの約束を果たすんだ。)
姫花は”カササギ”のネックレスに軽く触れる。
姫花:「あと、お父さん、星夜くんは絶対元気になるから、手紙を書いて預けておくね。」
姫花:「彦野さんに星夜くんに届けて欲しいと伝えてもらえる?」
手紙には記されていた。
ー1年後の7月7日18時に天の川公園で待ってるからねー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます