勇者闘技会"ミーコ・ロッタ"~盾魔法しか使えないのは、勇者として素敵な素質だと思いますよ~

@sukini

第1話 第97回 勇者闘技会"ミーコ・ロッタ"

―勇者"ミーコ・イノセント"


彼は、魔王を討ちし勇者である。

4人の仲間と共に、大陸の最奥にて暴力と絶望の象徴であった魔王城を制圧し、このガイアの地に平和と希望を取り戻した勇者である。


しかし、それは本当にあった出来事なのだろうか。

誰もが誉めそやし、我ら人類が希望の夜明けに涙した時間は疾うに過ぎ去った。

勇者が魔王を討伐して早90年。

ついに勇者の生きていた姿を知るものはこの世にただ一人となった。


―大賢者"ディアン・ブローネ"


勇者に付き従い、魔王を討伐した大賢者。

理外の魔法で不老不死となり大陸の中心で今も世界の動向を窺い続ける逸脱者。

そして、幾年も世界の均衡を見守り続けた選定者である。


彼は大陸の中心、中立都市"カストロデミア"を統治し、世界平和の象徴である最終闘技場"コロッセオ"を築きあげた。


目的はただ一つ。勇者ミーコの誓いを守るため。


勇者ミーコは生前、魔王という共通悪を失った後の世界を案じていた。

平和に飽きた人々が、更なる幸福と刺激を求めて再び戦争の時代に突入することを。


生物の本質は変わらない。弱肉強食。

人間の内に宿る獣性は、太平の世となってもなお失われることは無い。

次なる魔王は、必ず現れる。


だからこそ勇者は誓いを遺した。


「私の命と道連れにこの世界から戦争を失くしてみせる。世界は平和が一番だ。しかし、私は飲み込めぬ理不尽を、人の際限ない欲深さを知っている。だから、どちらも解決できる祭りを準備した」


それは、お調子者でお気楽な最強の人類が全世界拡声魔法で耳障りにも遺した言葉。


「勇者闘技会"ミーコ・ロッタ"、大陸中央にて8大国の勇者たちが覇を争う武の大会を開催し続けよう。そして、この大会を優勝した者の願いは何でも叶え続けてやろう。この不老不死のディアンが。」

「……は?おい、ミーコ。適当言うな、撤回しろ」


「人類よ、競い、争い、強くなれ」

「おい、ふざけるな。俺の余生どうすんだよ。知らねぇよ優勝なんか。撤回しろ」


「必ず勝ってみせろよ、ガキども」

「おい、ミーコ。何言い残してんだ。おい、マジで死にそうになってんじゃねぇぞ。撤回しろ!撤回しろよ!?おいミーコ!おい!」


「じゃあな…お前ら。愛してるぜ」

「撤回しろおおおおお!?ミーコオオォォ!!!!」


かくして、勇者"ミーコ・イノセント"は世界に平和の礎として勇者闘技会"ミーコ・ロッタ"を遺して死んだ。戦争と大賢者の余生を道連れに。


この世界は、勇者闘技会"ミーコ・ロッタ"を中心に周り始めた。


今なお亡き勇者に振り回され続けている大賢者は、今宵もコロッセオの玉座で虚ろな目で聖杯を磨いていた。


今年で第97回にもなる、勇者闘技会"ミーコ・ロッタ"(激務過労死検討会"ミーコ・コロソッカ")がもうすぐやってくる。


「絶対殺してやる。あの世に行ったら、絶対に殺してやるぞ……」


そこには、世界でただ一人、友との思い出を忘れぬ大賢者の、美しい友情の一幕があった。


「絶対に殺すからなあああ、ミィコオオオオオオ!!!!」


愛すべき旧友の思いつきによって100年の時間を忙殺されている大賢者は、絶殺の咆哮をあげた。

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