気紛れな相談屋のようです

璃亜里亭 無音@ティオンヌマン

〇秣川岸 無頼

『気紛れな相談屋のようです』 

             璃亜里亭 無音









〇秣川岸 無頼


某駅の掲示板。そこに書かれた一行の文。


『怪異にお困りの際は〇〇〇〇―〇〇〇〇まで』

 いたずら書きにしか思えないこの文章、掲示板の隅に小さく書いてあり、普通の人はまず気付かないであろう。本来ならすぐに削除されるであろうこの書き込みが消されないのは理由があった。

 一人の男が掲示板を見て電話を掛けている。顔色は悪くせわしなくあたりを見回している。

 ガチャという音と共に通話が開始された。

「も、もしもし!?駅の掲示板を見たんだが……!」

「ああ、お客さんですか。それで、一体どのようなご用件で?」

 必死さがにじみ出る男とは対照的に、電話口の声は非常にのんびりとしたものであった。

「た、助けてくれ!このままじゃ……俺、殺されちまう!」

「ほう……、んじゃあ詳しく話を聞きましょうか」


※※※


 先ほど電話を掛けた男が喫茶店の前で、やはり先ほどと同じように何かに怯えながら立っていた。終始辺りを見回し、その目は血走っていた。

「やあ! どうも!」

 ふいに声を掛けられ、男は奇声を発して尻餅をついた。

「先ほどはお電話どうも。何かお困りの湯王で」

 声を掛けてきた男の方は相手を気にすることなく一人で話し続ける。

「一体どのようなご用件ですかね?あ!立ち話もなんですからコーヒーでも。そのために喫茶店で待ち合わせしたんですからね」

 そう言うと男は一人で喫茶店内に入っていった。取り残された男も慌ててそれに続く。

「アイスコーヒーを二つ」

 先に入った男は既に注文を済ませていた。

「お、おいアンタ……」

「あ、注文はアイスコーヒーで良かったですかね?中々来ないから先にまとめて注文しておきましたよ!」

「あ、ああ……いや、そんなことより……」

「ああ! そうですよね! 注文なんかよりももっと大事なことがありました!自己紹介がまだでしたもんね! 私、こういう者です」

 そう言って差し出された名刺には『秣川岸 無頼(まぐさかわぎし ぶらい)』と名前だけが書いてあった。

「あ、ああ……どうも」

「改めて、秣川岸 無頼と申します。で、あなたは?」

「長岡 雄二だ……」

「特徴の無い名前ですね! でも大丈夫! この僕がきちんと覚えましたからね!」

「おい、いい加減にしろ……! からかっているのか!?」

「は?」

「俺は…俺は真剣に困っているんだ!冗談なら他所でやってくれ!」

 そういって長岡と名乗った男は席を立とうとした。

「知りませんよ、あなたが何に困っているかなんて。それはこれからお伺いするんです」

「お前……」

「あ、コーヒーが来ましたよ! ここのコーヒーは美味しいんですよ」

 運ばれてきたコーヒーをストローで勢いよく啜りながら、無頼は言う。

「さあ、話してください。怪異にお困りなんでしょう?」

 そのセリフには得も言われぬ迫力があった。

「ああ……」

「詳しく聞かせていただけますか?」



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