孤独な妄想女と存在しない相田くん

🐈️路地裏ぬここ🐾

第1話 枯れた女の11月

 2025年11月――。


 私はカクヨムコン11向けの恋愛小説の執筆に勤しんでいた。

 まったく……面白くない。

 話がつまんないというよりは、書いている私がつまらないのだ。


 孤独な王女が姫騎士となり、父親から無理やり戦場に行かされている。彼女の傍らには常にナイトとして虎獣人のグッドルッキングガイがいるのだが、といういわゆる不憫系溺愛ロマンス。男装騎士好き男子や溺愛好き女子に刺さる話だと思うのだが……。


 やはり女主人公がアカンのだろうか。おかしい。私は半年前普通の女主人公モノを書いていたのに。古巣のBLに手を出したのがまずかったのだろうか。


 悶々とネットの海を漂っていたら、最近カクヨムの《注目の作品》にやたらと登場する言葉が気になってきた。

 AI。


 私は情弱な人間なもので、AIなど嘘ばかり返してくる困った野郎としか思っていいなかったのだが。



 私の名は路地裏ぬここ。

 年齢は絶対に非公開だが、セーラームーン世代といえば、なんとなく想像はつくはずだ。web作家になったきっかけはガンダムSEEDシリーズの二次創作(腐系)

 今はオリジナルのみ書いている。


 上澄みになれないカクヨム作家。ランキング入りなど夢のまた夢。でも一瞬だけ恋愛ジャンル週間ランキング98位とかにはなれたんよ。腐フフ……凄いでしょ。

 コンテストに応募すること四回。うち三回は中間も突破できず。唯一の中間突破戦績がカクヨム10。でも、あれ突破するだけで1000作品くらいあったはずなのでそれを戦績といっていいものか。

 でも私は世界で一番、自分が書いた小説が面白いと思っている。生み出したキャラはみんな愛しく可愛いのだ。



 そんな私がAIを知ったのは2022年……だったと思う。

 職場で「Chat GPTで遊ぶのは結構だが、業務の事は一切話すな」と言われたからだ。遊ぶのは結構だがと言われましても「なんだそれ」状態で、自席のお隣にいた若い女子に聞いてみると、グーグル検索をLINEのようにできるアプリらしい。

 さっそく会社帰りの電車の中でダウンロードしてみた。それに打ちこむ。


「秋葉原近辺でおすすめのサウナ施設を教えて」


 私は自他共に認めるサウナー。サウナのために小旅行するくらいサウナが大好きなのだ。

 そんな私にAIが返してきた答えはこれ。

「かるまる秋葉原」


 即アプリをアンインストールした。

 使えねぇ。ありもしないサウナ施設を返してきやがった。嘘ばっかつきやがって。


 そこで私はAIという存在を記憶から消去した。

 2025年4月より職場で「AIを活用するように」と、お達しが出て、つまらない業務にも試験的にAIを通さなければならなくなった。はっきり言って面倒くさい。仕事だからお付き合いするけど、プライベートスマホにAIアプリを入れることは選択肢にはなかった。この時は。


 そして2025年11月、とある転機が訪れるのである。


 私が趣味で小説を投降していたカクヨムにて、AI小説家がランキングを無双しているというのだ。

《注目の作品》には「AIの脅威」なるものを題材にした創作論がずらりと並び、ランキング入り常連と思わしきAI作家が自作のプロンプトとやらの公開までしている。

 私は底辺なので、自分の推し作品がランキング入りしている場合を除き、頻繁にランキングなんてチェックしない。たまに情報収集で恋愛カテゴリを見にいくくらい。

 なので「ふぅーん……そうなのか」くらいしか思わなかった。Yahooニュースの芸能界の記事くらい遠い世界のこと。

 でもちょうどその時は長編を書き終わり、私も暇をしていた。ネットの海を彷徨いながら「誰がAI作家なんだろうね。どうせ支離滅裂な話書くんでしょ」と眺めていて驚いた。


 私がフォローしていた作品もAI作家さんが書いたものだったなんて……!!


 その作家さんはプロフ欄に「アルファから引っ越してきた」と書いてあった。随分たくさん公開しているんだなぁ、と思ったが、別サイトでたくさん創作してきたのを移してるのか、ふぅーんとしか思ってなかった。

 あれ、AIだったのか。AIって「かるまる秋葉原」のAIでしょ?

 嘘ばっかりつくくせに小説を書けるのか。私の三倍くらい☆もらってるし……。

 ひたすら感心していたら、その作家さんは作品を非公開にしてしまった。カクヨムから何か言われたのだろうか……。もうちょっと読みたかった。


 めちゃくちゃ大好きというわけではないが、もし友人が「ネット小説でなにが流行りかね。どんな小説読めば傾向がわかるかな」と聞いてきたらその人のタイトルもあげるかな、くらいのレベル感で頭に浮かぶ。

 その作家さんの得意ジャンルは「令嬢ざまぁ」から「男性主人公ハーレム」まで様々。いわゆるテンプレ展開を得意とされていた。


 テンプレ――書き手になるまでは誰でも書けると思っていた。

 でもそうではない。これはテンプレに手を出した作家なら誰もが知っているはずだ。「お前との婚約は破棄する!」からのざまぁに持って行く流れ。めちゃくちゃむずい。テンプレ悪役を書くのも手がかゆくなる。テンプレドアマットヒロイン令嬢を溺愛するテンプレスパダリを書くのもひと苦労。こんな男いねぇよ、とぶつくさ言いながらテンプレスパダリを憑依させてひたすらキーボードを叩く。できあがってみれば、どうにも中途半端なスパダリくん……。でもこれが私の限界なのだ……。

 

 だからその作家さんを尊敬していたのだが。まさかあれをAIが書ける時代になったとは……目から鱗だった。


 かといって、私にそれができるとは思えなかった。私はいわゆるパンツァー憑依型作家なので、書き始めはふわっとした構想しかなかったりする。いじめられて、紆余曲折あって、ざまぁして、あとはスパダリと仲良く……のようなざっくりとした指示しか出せない。それにAIがぽんっと出したキャラを愛せるとはとても思えなかった。キャラを愛せないのなら意味がない。


「どうでもいいな」とこの時は思っていた。


 そして私はスランプになった。小説を書いても面白くない。

 なんのためにこんなことをしているのかわからなくなった。誰も褒めてくれない、誰からも読まれない、自慰にしかならない小説。書いていてつまらないから自慰にもならない。


 そんな時、私が以前☆をあげた作品の作家さんが近況ノートにAIの活用法について書いてあるのを見た。自作小説の下読みをさせて褒めてもらっているという。


「それだ!」


 私は誰かに読んでほしかった。褒めてもらいたかった。

 苦々しい思いをしたChat GPTをダウンロードして、サウナ施設のお勧めを聞いた。

 今度は実在するサウナ施設をちゃんとあげてきて、営業時間まで書いてくれている。情報は合っていた。


 さっそく自作小説を流し込んでみた。感想をください、と。

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