第6話 濁音の王ガンに敗れ、旅立つ和光
村を覆う黒い霧。
ガンの濁音が響くたび、
人々の心は波立ち、怒りが渦を巻いた。
和光は巻物を胸に抱き、
静かに歩み出た。
ガンは嘲笑う。
「来るか、小僧。
清らかな音で世界が変わるとでも思ったか。」
和光は震える声で言った。
「人を争わせるのは……もうやめて。」
その言葉は
たしかに優しい“清音”を帯びていた。
しかし――
ガンの胸の《ガ》が、
重く濁った波動を放つ。
「ぬるい。」
次の瞬間。
ガンの濁音の波が、
雷のように和光へ襲いかかった。
初めての衝突
和光はとっさに息を整え、
胸の奥の“ん”の響きを呼び起こした。
「……んっ!」
彼の声から放たれた波は、
確かに光を帯びていた。
だが――
ガンの濁音はそれ以上に強かった。
ガンがただ一言、
「ガッ」
と放つと、
その音は岩のように重く、
和光の清音を粉々に砕いた。
光が弾け、
和光の身体は宙を舞う。
地面に叩きつけられ、
巻物は遠くへ転がった。
胸は痛み、
呼吸ができないほどだった。
ガンは冷酷に見下ろす。
「弱い。
“ん”の継ぎ手と言えど、未熟。」
和光の視界が揺れる。
ガンの声が遠くに聞こえた。
「強くなれ、和光。
わしを倒すためには、
人の悲しみ、怒り、濁り……
それらすべてを理解せねばならん。」
そして、ガンの影は霧とともに消えた。
残されたのは、
打ちひしがれた和光と、
荒れ果てた村。
敗北の朝
和光は村人に助けられ、目を覚ました。
村の空気は重く沈み、
誰も言葉をかけられない。
水は再び濁り、
大人たちは不信と不安に満ちていた。
和光は自分の力が足りなかったことを悟った。
「……このままじゃ、
村も……世界も救えない。」
その時。
巻物が遠くで淡く光り、
一行だけ浮かび上がった。
《清音を超えよ》
和光は立ち上がり、
村人たちに深く頭を下げた。
「しばらく……旅に出るよ。
ガンを止めるために、
もっと強くならなきゃいけない。」
誰も止めなかった。
ただ、村の子どもたちだけが泣いた。
和光は優しく微笑んだ。
「必ず帰る。
その時は……“ん”の響きで、
世界を守るよ。」
そして、
和光は巻物を抱え、
静かに村を後にした。
向かう先は――
三柱の神々が眠る地、
“音の源郷(おんのげんきょう)”。
旅が始まる。
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