第5話
その夜。
宿題を終えて布団に潜り、俺は今日を振り返る。
――朝は楓姉のハグ、昼は桜木さん、帰りは莉央姉。
平凡な男の平凡じゃない日常。
「……もう寝よ」
電気を消し、目を閉じて数分。
カチャ。
……ドアの音?
「……悠。起きてる……?」
低く、眠たげな声。
嫌な予感しかしない。
「莉央姉!?なんで夜に入ってくるの!?」
月明かりだけの部屋に、莉央姉がそっと、猫みたいに入ってくる。
パジャマ姿で、髪が少し乱れている。
可愛い……いや落ち着け俺。
「……寝ようと思った。でも……今日は色々あったから……」
俺の布団の中に入ろうと膝を乗せてくる。
「ちょ!入ってくんな!!」
「……少しだけ。隣で寝たいだけ……ぎゅーって……」
甘い声。危険だ。
この姉は眠いとスキンシップ欲が暴走する。
「いやマジでやめて!俺男子!姉弟!今深夜!」
「……弟だから安心」
「一番安心しちゃダメな理由だよそれ!?」
布団の端を引っ張り合う攻防戦。
俺は全力で死守する。
「……悠、拒否すると……余計したくなる……」
なんで誘惑みたいなセリフ言うんだこの姉は。
布団の中に入ってきて無理やり抱きついてくる。
――その時。
バン!と強めのノック、即開扉。
デジャヴか?
「莉央、アウト。深夜スキンシップ禁止」
冷えた声。
詩乃姉、腕を掴んで強制確保モード。
「し、詩乃姉!?なんで来た?」
「悠の部屋のセンサーが働いた」
「そんなシステムあったっけ!?」
詩乃姉が冷ややかに言う。
「莉央、夜這……侵入行為は反則。罰として私の部屋で説教30分」
「……やだ。悠と寝る……」
「連行」
ずるずると引きずられていく莉央姉。
手だけ俺の布団に伸びる。
「ゆぅぅ……一緒に……」
「来るな!寝ろ!!」
まるで悪霊のようだ。
しかし救いの手はまだあった。
廊下からふわりと現れる影。
「夜は早く寝ないと肌荒れるよ〜? 莉央」
楓姉、にっこり。
にこやかな圧が一番怖い。
「二人がかりで連れ戻すね〜」
「……やだぁ……悠……むにゃ……」
莉央姉は完全に眠気で戦闘不能。
そのまま引きずられ、扉が閉まる。
部屋に静寂が戻り、俺は布団に潜り直した。
「はぁ……命拾いした……」
天井を見つめながら小さく笑う。
――めんどくさい。
でも。
こんな夜も、悪くない。
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