第4話
月曜日の一限目が終わり、教室はだるい空気に包まれていた。
俺は机に顔を伏せて現実逃避中。月曜は本当にキツい。
「悠、顔がゾンビみたいだぞ」
「星野、鏡貸せ。お前の方がやばい」
隣の席の星野がボソッと突っ込んでくる。
弱そうな黒縁メガネと肩の力の抜けた姿勢、同族感MAX。
気を使わず喋れる数少ない友達だ。
「てか、今朝も莉央先輩と登校してたって噂流れてたぞ?」
「見てたのかよ」
「いや、全員見てた。注目の的だった」
「勘弁してくれよ……」
誤解が勝手に膨らむのほんとやめてくれ。
◆
と、その時。
俺の机の前に影が落ちた。
「篠原」
静かで、感情の起伏が少ない声。
顔を上げると、無表情ぎみにこちらを見る少女――
桜木 遥(さくらぎ はるか)。
黒髪で前髪は整っている。
美人なのに目立たず、必要最低限しか喋らないタイプ。
だが至近距離で見るとどこのモデルかって可愛い。
クラスでは「謎」「近寄りづらい」扱いされている。
「……ノート、後で見せてほしい」
「お、おう。いいけど」
「助かる。また昼に」
淡々とした声で言い、すっと離れる。
態度はクールなのに距離は近い。不思議なタイプだ。
星野が小声で肘で突いてくる。
「……お前さ。女の子と普通に話せるのな」
「いや、全然普通じゃなかっただろ今」
「淡々クール系美少女に頼られる人生……勝ち組か?」
「違うって!!」
声が裏返って周りの視線が刺さる。
恥ずかしすぎる。
◆
昼休み。
星野といつもの隅の席で弁当を食っていると、不意に影が落ちた。
「篠原」
遥がコン、と俺の机に小袋を置いた。
「これ……クッキー。ノートの礼」
「えっ、いや良いって言ったのに……」
「受け取らないなら捨てる」
「捨てなくていい!ありがたく頂きます!」
食い気味で受け取ったら、遥がほんの少しだけ目を細めて頷いた。
笑った?のかもしれないが表情変化が極小すぎて分からん。
カリッと一口。――うまい。
甘すぎず控えめで、遥の性格みたいな味だ。
星野がニヤニヤしながら囁く。
「悠……完全に餌付けされてるじゃん」
「うるさい黙れ」
◆
放課後。
昇降口で靴を履き替えていると――
「悠、迎えに来た」
当然のように現れる莉央姉。
やっぱり目立つ。教室じゃなく昇降口なのが唯一の救いか。
「なんで校舎まで降りてきてんだよ」
「……帰り道、一緒の方が安心」
「俺は心臓に悪い」
周囲の視線が増えていく。
「莉央先輩だ」「今日も弟と帰ってる?」
聞こえる聞こえる聞こえる!
そこへ無表情で近づいてくる影。
「篠原」
遥だ。
「……姉?」
「あ、うん。こいつ俺の姉」
遥は莉央姉をじっと見つめる。
敵意でも好奇心でもなく、無表情で淡々と観察。
「綺麗。……人気がある理由わかった」
莉央姉は微かに嬉しそうに微笑む。
「あなたは……悠の友達?」
「クラス。昼、一緒に話した。……篠原のクッキー食べた」
「それ俺のじゃなくて遥のな!?誤解招く言い方やめろ!!」
莉央姉の琥珀色の目が一瞬だけ細くなる。
――どこか牽制の色。
遥は気にもせず淡々と続ける。
「明日もノート、借りる。いい?」
「い、いいよ。たぶん」
「感謝」
静かに去っていくその背中は、どこか猫みたいだった。
星野が遠くから親指を立てる。
いちいち煽るな。
◆
家へ向かう帰り道。
莉央姉がぽつりと呟いた。
「……あの子、悠のこと気にしてる」
「そ、そうか?」
「わかる。表情薄いけど……弟を見てる目が違った」
ちょっとだけ腕を絡めてくる。
「……ねぇ、悠。悠はお姉ちゃんが一番だよね?」
さっき聞かれた気がする質問だ。
なんで念押しするんだよ。
「うん、まぁ……そうだな」
今日はすっごい疲れた、、、
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