第2話 翌日の再会

翌日の朝。

スーツをビシッと着直した昨日の男性客が、恥ずかしさを引きずった面持ちで再来店した。自動ドアのガラスに映る姿を確認しながら、襟を整え、ネクタイが曲がっていないか細かく点検している。その几帳面な仕草は、カウンターの智子さんから丸見えだった。


智子さんは思わずくすっと笑う。


男性はカウンターに来ると一礼した。


「昨日は本当に申し訳ありませんでした……。実は私、宇宙開発ベンチャーの社長でして……」


社長、と聞いても驚くほど年齢は若い。三十前後の青年といったところだ。


智子さんは穏やかな笑みで応じた。


「あら~、だから“打ち上げ”でお酒がロケット並みに上がっちゃったんですね。プロジェクト、うまく“軌道に乗った”みたいで何よりです」


社長は苦笑しながら手を振った。


「いえ……逆でして。うまくいかなくて、やけ酒だったんです……」


智子さんの表情がわずかに鋭くなる。


「え? うまくいかなかったって……どこが?」


社長はまだ二日酔いの頭痛を抱えるような声で呟いた。


「最終段の姿勢制御ソフトが、打ち上げ後に異常値を吐き出すんです。考えうる限りのファクターを入れて何十回シミュレーションしても再現性はあるのに、原因だけが掴めなくて……。実際の打ち上げではどうしても……」


ここでようやく我に返る。

(なぜ俺はコンビニの店員に技術的愚痴をこぼしているんだ)

そう気付いて口をつぐんだ。

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